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白の記憶

――ザァー……。 昨日に続いて今日も冷たい雨が降り続いている。あの子は意識がないまま、ずっと病室のベッドに横たわって眠ったままだった。まるで、死んでるかのように見えた。 医者が言うには一命はとりとめだが、まだ安静にしなくてはならないそうだ。できればこの子が、このまま眠りについてしまえばいいのに……。  その方がこの子が受けた苦痛も和らぐだろう。どうしてこんなことに…――。  何も知らない私はただ無力にも、この子をタダ見守る事しか出来なかった。そんなことを考えていると、また生命維持装置に目がいった。  今は病室には誰も居ない。やるなら今か――?   私は眠ったままのあの子の寝顔を見ながら、自分の心の中でまだ迷っていた。果たして壊れたこの子に希望はあるのか。  このボタンを切れば、この子は直ぐに息をひきとるだろう。そう、それは簡単な事だ。それなのにその手前でボタンが押せない。  きっと切れば、この子は二度と目を覚まさないだろう。あの笑顔もみれなくなる。そう思うと、なかなかボタンが押せなかった。  あの子の前で泣かないと心に誓ったのに何故か涙が出てくる。せめてもう一度、私に笑いかけてくれ――。 そうこうしていると、看護婦に呼ばれた。今から医者から話があるらしい。 重たい足を引き摺ると私はあの子がいる病室から出て行った。 医者から聞かされた話しは絶望的だった。正直、きかなければ良かったと思った。 医者の話しに、あの子の両親は泣いていた。  私はあの子が着ていた破れた制服の上着を握りしめると胸の奥から激しい怒りが込み上がった。『理不尽』で『不条理』なこの行き場のない怒りを一体、どこにぶつければいい?

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