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─輪─
「大学休んで俺と付き合えよ、お前もさっきからこれがやりたくて仕方なかったんじゃないのか?」
真樹はそう言って誘ってきた。俺はパチンコ台の前で息を呑んだ。この渇きは単に水が飲みたいんじゃない。これは『欲求』の渇きだ。
俺は自分の中で感じてる欲望の渇きを抑えるのが精一杯だった。だが、玉が出てくる音を聞く度に欲求は徐々に高まった。
「我慢は身体に毒だぜ。パチンコは面白いよな、わかるぜお前の気持ち。ほら、こうやって玉を打ってる時なんか特に楽しくてしょうがないんじゃないのか?」
「俺は……!」
「お、やったー! さっそくの大当たりだぜ! あははっ、マジで今日はついてるな~!」
真樹は自分の台でパチンコを楽しそうに打っていた。俺は側で見ていて、やりたい気持ちが抑えられなくなってきた。
「なあ、天野。このまま何もしないで大学に行くのか? いま手を伸ばせば欲しいものが手に入るのにホントにやらないのか? 俺だったら迷わずにやるけどな」
「ッ…――!」
「お前も座って一緒にやれよ。な?」
あいつの囁く声が段々と、自分の心を乱した。そして喉が渇いてしょうがなくなった時に自分の意思とは関係無く体が勝手に動いた。
椅子に座った瞬間あいつが隣で笑った気がした。震える手でハンドルを握って回すと、パチンコの玉が出る音に気持ちが高揚した。もう自分の中で抑えていた欲望が一気に溢れだした。
底無しに引き込まれる感覚に、自分の理性すら吹っ飛んだ。そのまま黙ってパチンコ台にのめり込むと、いつの間にか気がついたら没頭したままの状態で玉を打ち続けた。
「そう、それだよ慶ちゃん! ちょっとはお前もらしくなったんじゃないのか? 人生、楽しんだもの勝ちだ! パァっとやろうぜ、パァっとな!」
真樹は隣の席で楽しげに話すと、ケラケラ笑って俺の背中を大きく叩いた。大学に行く気持ちが、消え失せると台の前でひたすら玉を打ち続けた。
一度依存にハマると抜け出せない。それが俺にとってはギャンブルだ。たった1度と思ってやった遊びが自分でも気づかず泥沼にハマる。
俺はその依存から段々と、抜け出せなくなって行った。そして気がついたら喉の渇きが治まった――。
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