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―現在―(そして…)

「広瀬君、キミはどこまでも純粋だね。私は一層それが羨ましく思えるよ…――」 「教授……。いいえ、僕はただ貴方の為に役立てる事があれば、それだけで幸せなんです」 「私に尽くしてくれるその純粋な思いは、とても嬉しい事だ。キミみたいな教え子が私の研究室に居て実に頼もしいよ。そうだな……。じゃあ、その時がきたら一緒に手伝ってもらうよ」 「はっ、ハイ……! 教授のお手伝いが出来る何て僕はとても光栄です…――! 貴方の足手まといにならないように一生懸命頑張ります!」  真っ直ぐな瞳で返事をすると純粋に喜んだ。誰よりも尊敬する彼に『自分は必要とされている』という思いは、青年の心を一気にグッと掴んだ。 その様子を見て彼はクスッと微笑を浮かべると、手を伸ばして広瀬の肩に両手を乗せて屈むと耳元で下の名前を呼んだ――。 「ホタル君、キミは本当に良い子だ。私はそんな素直な所が好きで気に入ってるんだ。だからこれからも、私の力になってくれるね?」 「きょ…教授…――!」  彼の優しい声の囁きがまるで官能的に耳元に響いた。広瀬は身体をゾクッとさせながら顔を赤く火照らした。魅了された瞳で彼をジッと見つめると、広瀬は急に涙を浮かべた。 「嬉しい……。初めて僕の名前を呼んでくれましたね? 教授は僕の下の名前なんか、覚えてないと思ってました」 「どうしてだい?」 「だって蛍なんて地味な名前じゃないですか? それに僕自身が地道な方だし。研究室では、他の生徒よりも余り目立ない方だし……」 「そんな事はないさ、私は素敵な名前だと思うよ――」   彼の顔に掛けていた黒い眼鏡を外すと、顎を指先で上に向けて顔を近づけた。 「キミは本当の自分の『魅力』に気づいていないだけだ。眼鏡を外した素顔は、とても奇麗だよ。もっと自分に自信を持つべきだ。違うかい?」 「教授……。その、お世辞でも嬉しいです…――」 「お世辞じゃないさ。ホタル、キミは可愛いよ」 彼の赤い瞳の奥には自分の姿が映った。怪しげな眼差しに魅了されながら、目の前にいる彼に身も心も夢中になった。 「もう一度、僕の名前を呼んで下さい…――」 「ああ、ホタル…――」 想いを寄せている彼に名前を優しく呼ばれると、涙を流して抱きついた。    「僕、嬉しくて……。今日の事は一生忘れません。愛してます教授。貴方が大好きです…――!」 一途な気持ちで愛を伝えると、腕の中にいる彼を何も言わずに抱き締めた。青年の穢れなき純粋な愛とは相反して、彼は冷たい瞳でクスッと微笑を浮かべた。それはまるで、キレイなモノを残酷に壊したがる歪んだ狂気のように。  

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