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ツワブキ親子の楽しい休日⑩

 ベッドを抜け出し、ダイニングテーブルに置きっぱなしにしていたスマホを手に取ると急に着信して震えた。 「あ……。」  画面には、「智裕くん」の字が表示されていた。拓海は心臓が跳ねてしまう。  ひとつ、呼吸をして心を落ち着かせて通話ボタンを押した。 「もしもし。」 『拓海さん?ねぇ、もう茉莉ちゃん寝てる?』 「え?えっと…寝てるけど……。」 『じゃあさ、そっと玄関開けてくれる?』 「え?うん…ちょっと、待ってて。」  電話を耳に当てたままお願いされた通りに玄関に行って茉莉を起こさないようにそっとドアを開ける。  すると急にドアが引っ張られて「ひゃっ」と驚くと、中に人が入り込んできた。その人に拓海は抱き寄せられて、いきなり、キス。 (え、何、え、智裕くん、だよ、ね?)  拓海の唇に割って入る舌先、拓海の後頭部を掴むゴツゴツとした手、そのあたたかさは間違いなく拓海の大好きなものだった。 「ごめん、ちょっと会いたくなった。」 「智裕く……。」  「どうしたの?」と尋ねようとする拓海の唇に人差し指を当てて言葉を塞いだ。その仕草が拓海の心臓を潰すようだった。  ドクン ドクン 「オフクロにお使い頼まれてるから、あと1回だけキスさせて。」 「あ、あの……智裕、くん……。」 「なーに?」 (どうしてだろう。なんでだろう。) 「俺も、智裕くんに会いたかった、なぁ…。」 (俺が足りないと思ってたら、会いたいと思ってたら、目の前に現れてくれた。) 「拓海さん、可愛いこと言わないで。1回しか出来ないんだから。」  ドクン ドクン ドクン (また明日から、頑張れるなぁ……。)  智裕がそっと出て行ったあと、茉莉の寝顔を確認すると、さっきよりも笑ったような顔になっている気がした。 「おやすみ……。」

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