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マツダくんの傷痕①

 生徒たちがまばらになった夕方の校舎。職員室は未だ営業中だった。  星野(ほしの)は一通りのパソコン作業を終え、背伸びをする。しかし目の疲れが取れないので鞄から目薬を出した。 「あ……。」  目薬が空っぽになっていた。星野は「はぁ」とため息を漏らして席を立った。職員室を出て、階段を降りる。  保健室のドアを開けると、机でパソコン作業をしていた養護教諭の石蕗(つわぶき)がいた。 「あれ?星野先生、どうされました?」 「あー…目薬切れてしまって……ココないですか?市販のでいいんで。」 「ありますよー。ちょっと待ってて下さいね。」  星野はいつもは生徒が座っている丸椅子に掛ける。石蕗は薬品棚から目薬をすぐに見つけて、星野に渡す。  「ありがとうございます。」と受け取って、すぐに点眼する。目頭を押さえながら使用した目薬を石蕗に返却した。 「あー…採点も集計もあんのに課題作りもあるしパソコンが憎いわー。」 「そうですね。またすぐ期末もきますからね。」 「それを言わないでくださいよ、石蕗先生。」  石蕗と星野は他愛のない会話で静かに笑った。薬品棚を締めながら、石蕗はポツリと呟いた。 「星野先生……お聞きしたいことがあるんですけど、いいですか?」  何とも言い辛そうな声で発した言葉だったので、星野は3秒ほど吟味して「いいですよ。」と答えた。

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