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夏が始まる⑤

「あーーーーーーどーーーーしよーーーー。」  午前0時、豆電球をつけただけの暗い部屋でタオルケットに(くる)まって智裕は不安で何度も目が覚めた。暗い廊下を進んでダイニングへ向かい、コップに水を注ぎガブガブと飲むが緊張や不安のモヤモヤは消えない。  さっき起きた時は「そうだ、性欲を処理すればいいのでは。」という安直な考えでこっそりスマホでエロ動画を見たが全く盛り上がらなかった。  そして智裕にはもう一つ足りないものがあった。  今日まで期末試験だったが、死んでも赤点を回避しろという監督命令の下、学年1位の江川のマンツー教育で授業と部活以外の時間をほぼ勉強で拘束されており、更に江川は「恋人への接見禁止令」で追い込んだ。  その為、智裕の中で「俺の拓海(タクミ)さんパワー」と呼ぶものが足りずに愛情のエンプティーランプが点灯している。  今すぐ会いたいが、拓海は自分の恋人である以前に1歳児の父だ。こんな真夜中は子供が夜泣きでもしない限り起きてないだろうし、電話をかけても迷惑がかかると思うのが普通だ。  なので智裕はそっとベランダに出て、拓海の家の方に向かって念を送る。 (拓海さん会いたい会いたい会いたい、あわよくば触りたいキスしたいベロ入れたい、そんでもってアソコをぐちゃぐちゃにしてヒィヒィ喘がせてトロトロな顔にして、俺のムスコでズッコンバッコンしてグチュグチュしてアンアンやって、ついでに拓海さんに俺のムスコさんをペロペロして欲しいです………なんでもいいから拓海さんに会いたいよぉぉおおおお!)  そんな淫魔の念は拓海に届くわけがなかった。  はずだった。

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