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夏が始まる⑥

 念を送った方向からベランダの窓が開く音がした。石蕗(つわぶき)家でベランダの窓を開けられるのは消去法で1人だけ。 「嘘だ…!」 「ふぇ⁉︎……智裕くん?」 (神様ありがとーーーーー!) 「拓海さんキターーー!」 「智裕くん、夜中だから声抑えて…!」 「あ。」  拓海に注意されて智裕は手で口を塞いだ。そして1つ咳払いをしたら、拓海の家のベランダの方に乗り出す。 「さっき“烈風 甲子園”見たよ。智裕くんは?」 「寝ようと努力してたから見てない……。なんか5組のグループ通信でかなりディスられてるのは確認した。」 「ディスられてるの?」 「西の松田はイケメンで俺はオーラ無しとか、出オチとか…いつも通り安定の悪口パレードだよ。」  何で確認してしまったのかと夜空を見上げながら後悔する。  そんな傷心の智裕の姿にさえ、拓海は見惚れる。 「確かに八良先輩、身長小さくて女子みたいな綺麗な顔立ちしてるし、面白いし、なのに強いし、勝てる要素は1つもないのは分かってるよ。それにめちゃくちゃ面倒見が良くて俺もすげー世話になったもんなぁ。」 「俺は…智裕くんが……1番カッコ良いいって思った、よ?」 「あははー…拓海さんだけだよ、そう言ってくれるの。」  いつものように冗談めいた調子でそう返すと、拓海は黙っていた。  それを不思議に思って智裕は拓海の方に目をやると、拓海は嬉しそうに美しく微笑んでいた。
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