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県大会決勝戦①
翌日、午前11時30分には四高の体育館は満員だった。
ステージにはテレビの映像が流れていた。県大会決勝の前にやっている料理番組。
「あーやべー腹減ってくるわー。」
「ほー…めんつゆにごま油か……いいな。」
「椋丞 、それ後ろのオバハンたちと同じリアクションだぞ。」
先着順だが、校長と教頭は最前列に座ってテレビ局のインタビューに応えたりしていた。
「区役所もヤバいってさ。ほら。」
裕也は周りのクラスメートに姉から送られてきた画像を見せていた。
1枚目は姉と母が応援用ウチワを持った写真、2枚目は人でごった返している区役所の広いロビーの写真。
「なんか…松田が遠い人になった気がするね。」
「元気でやってるのかな。」
「あいつ、いいヤツだったよな。」
「ちょっと、松田くんが死んだ人みたいなテンションになってるよ。」
試合開始10分前でニュースになる。最初のニュースが県大会決勝の試合直前の中継だった。
『間も無く試合開始されます。先程、スターティングメンバーが発表され球場は歓声に沸いています。』
映されたのはバックスクリーンの電光掲示板。第四高校と聖斎学園の先発出場選手の名前が並んでいる。
「四高 が先攻か。そんで1番が赤松…うわ、初っ端から兄弟対決かよ!」
「え?あれ同じ苗字って兄弟なの?」
まだ詳細を知らない生徒たちはスマホで検索をしながら予習をする。おそらく赤松直能の顔を見た女子だろう、黄色い声を上げている。
直倫のクラス、1年4組の生徒たちの殆どは直倫の家庭事情を知ることがなく驚いていた。
「赤松くんっていつもボーッとしてたし怖い雰囲気あったけどねー。」
「わかるー。でもこうして見るとイケメンだよねー。」
「つーか赤松の兄貴やべーな!モデルみてぇ!」
その輪の中には水上 もいた。
水上は知っていたがわざと知らないふりをして同調している。
「なー、水上、松田先輩勝てんのかな?」
「でもまっつん日本代表だからね。打てるかどうかじゃね?」
「それ言えてるわー!」
水上もスマホをいじりながらその時を待っていた。
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