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いざ、馬橋学院へ②
「なーなー、トモちんとあのシュッとしたにーちゃん、そーゆーカンケーなん?」
野村の後ろの席にいた八良が席から立って顔を出して、野村に訊ねた。
「あれは松田くんが恐喝されてるだけですよ。」
「そうなん?俺もマネージャーにあーゆーのやってーって言われてたことあるで。なぁ、シュンちゃん。」
「あんな地獄、2度とごめんや!」
八良の隣に座る中川は青い顔をして凄んだ声で答えた。
八良はブーっと拗ねて中川に向かい合って膝の上に乗ると、中川の口角を上げる。
「シュンちゃん怖いでー。トモちんとも久しぶりに会うたんやから笑いー。」
「ひゃへほひゃほけぇ…っ!」
「ヒャハハハ!シュンちゃん変な顔ー!」
騒がしい車内になり、最前列に並んで座る両校の監督は互いに申し訳無さそうな雰囲気になる。
「すんませんなぁ…ウチのエースが騒がしくして。」
「いえ、こちらも色々の騒がしくて申し訳ありません。」
カタギでない雰囲気の森監督とは対照的で、お腹がドップリ出ていて美味しいちゃんこを作ってくれそうな優しそうな中年男性こそ、日本一の高校野球部を育てている名将・廣澤 監督。
「よぉしてもろうてる記者からどーしてもW松田を撮りたい言われてしまいましてなぁ。」
「あの2人は今大会の注目カードですから分かりますよ。」
「ホンマ私も驚いてますよ。今回の抽選がヤラセちゃうか?って周りから言われてしまいますし。」
対照的な2人でも和やかに道中の会話を楽しんでいた。
「2日目は敵同士ですが、グラウンドからハケたらお互い仲良ぉなったらええですね。」
「馬橋学院はうちの生徒たちにとっても刺激になるでしょう。私も勉強させてもらいます。」
「いやー、アイツら野球以外はただのアホですから。こちらこそご迷惑をおかけしますが、よろしゅう頼みます。」
監督同士は良好な関係を築けているようだった。その会話が聞こえた清田と今中は少し安心していた。
「馬橋の監督、なんかエビス様みたいな人だな。」
「意外ですね……でも練習では厳しいかもしれませんよ。」
キャッチャーの2人は雰囲気に呑まれすぎないように、少しだけ気を引き締めた。
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