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激闘の日【1回表】③

 球場は四高のターンだった。  聖斎(せいさい)学園の吹奏楽が鳴り響く、それに合わせて次の打者へエールが送られる。  かっとばせー! まっつっだ!  智裕はバントの構え、そして赤松は1塁ベースから距離をとって盗塁の機を伺っていた。  八良(ハチロー)から放たれたのは、彼の得意な球種である普通のカーブだった。バットに当たったが判定はファウル。  2球目の前に、八良は1塁に牽制(けんせい)。直倫が戻る方が速くセーフ。ランナーは1塁のまま。  そして構え直した八良は頷いてセットすると、遅いストレートを投げてきた。智裕は1塁側へと球を当てて、走り出す。送りバントは成功し、赤松は2塁に進塁する。  ベンチの部員が智裕を温かく迎えるが智裕はすぐにプロテクターを外して次の回の投球準備を始めた。 「今中(いまなか)先輩、お願いします。」 「おう。」  その智裕の様子を野村は横目で見ながら、グラウンドに目を向ける。 (松田くん……すごい気迫…すごいというか恐怖に近いかもしれない。崩れなければいいんだけど…。)

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