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激闘の日【2回表】⑤

 マウンドには馬橋のキャッチャーと内野手が集まっていた。 「あーやばい。俺の後ろから鬼が徐々に来とるて…。」 「あかん…ベンチ帰ったら命失くなるって……。」  セカンドの沼尻とショートの佐々の二遊間コンビの顔は青くなっていた。サードの中川もチラリと外野の方を見て気まずそうな顔をする。 「沼ちゃん、さっちゃん…死んでも内野ゴロに仕留めなあかんで。」 「中川先輩、悪送球だけはやめてくださいよ。もう俺ちびりそうや…。」  ファーストの渡井は脚が震え始めていた。さすがの畠もキャッチャーマスクの下で唇を震わせていた。 「バックホームシフトにしますけど、み、みなさん、センターは気にせずに守ってくださいよ。」 「おう。」 「すまんな…俺が手ぇ滑らせてもうて。」  八良は本当に申し訳なさそうに(うつむ)いて謝る。しかしその姿に他のメンバーは顔を青くした。 「謝んなボケが!」 「そうですよ!ハチローさんが謝るとか明日雪降りますから!やめてください!」 「なんやねん、いっつも謝れ言うとるやないか。」 「やかましい!ハチローさんはもう集中しといて。じゃあ、頼んます!」 「っしゃあ!」 「任せろ!」 「センター気にせず!」 「1点もやらへんぞ!」  全員を鼓舞し合い、守備に戻る。そして畠はバッターボックスの前で両手を大きく広げて8人にバックホームシフトと伝えた。 (あー……ハチローさんのずーっと後ろが禍々しいな……絶対絶対絶対に堀にホームベース踏ませへんぞぉ…。)  畠と八良は18m離れた場所で一緒に呼吸を合わせる。  ピリピリした中で6番打者の当麻がバッターボックスに入った。

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