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激闘の日【4回裏】④

 清田は叫んだ。  しかし中川は悠々と走っていく。  カーン、打球が何処かに当たる音が、清田と智裕の耳に小さく響いた。  湧き出す観客の声、落胆の声は2人の聴覚からはシャットアウトされ、ただ、打球の寂しい音がずっと頭に響いていた。  それは遠くにいるレフトの堀も、1番近くのライトの川瀬も、ショートの直倫も、ベンチにいる野村も、同じだった。 (まだだ……こんなんで崩れたら、エースじゃねぇ!泣くな!喚くな!叫ぶな!平静でいろ!)  苦虫を噛むような表情で、智裕はバッターボックスに向き直した。  その智裕の姿は、四高の森監督、馬橋の廣澤監督、長年高校球児を見てきた2人でさえも震えてしまった。 「……畠…。」 「何ですか?」 「俺は、あんな風にマウンドに立ってられるか?」 「……立ってもらわな困ります。アンタは日本のエースやからな。」 「はは……厳しーな。」  八良はスポーツドリンクを一口飲んで、「よっしゃ」と気合を入れ直して、ベンチに戻ってくる中川を迎え入れた。 (ハチローさん……もう西や東や言わせへん。頂点に立つんはハチローさんや!

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