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激闘の日【エース崩壊】④

 球場に、虚しいアナウンスが響いた。 『第四高校、選手の交代をお知らせします。ピッチャー・松田くんに代わりまして、ピッチャー・桑原くん、ピッチャー・桑原くん、背番号、10。』  八良の時とは対照的で、智裕は1人で歩けていた。前を向いて、堂々とベンチに向けて歩みを進める。  凛としたその姿に胸を打たれた観客は立ち上がり、智裕へ労いを投げかける。 「松田!よくやったぞー!」 「神奈川の星だー!」 「馬橋相手によくやったー!」  まっつっだ!   まっつっだ!  まっつっだ!  まっつっだ!  大きな、大きな声援は、智裕の耳には入らなかった。 (なんか……グルグルしてる……何も聞こえない。あ、監督が腕組んで立ってる……怒られるんだろうな、何やってんだ、って。清田にも、野村にも……みんなが呆れてるだろうなぁ……俺は、背番号1なのに……。)  智裕は森監督の前で止まり、帽子を取って頭を下げた。するとゴツゴツした壮年の手が頭に乗せられる。 「よくやった。」  厳しくても優しさが含まれた声色。智裕の耳にいやに響く。  帽子を深く被り直して、ベンチにいた部員がタオルとスポーツドリンクを差し出した瞬間だった。  ガターンッ  智裕はそのまま倒れこんだ。 「ああああああああああああああああああ!」  その瞬間が、運悪く全国に届けられてしまった。

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