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マツダくんの部屋④
「あ…この人って、すごく有名な投手、だよね。」
「うん、由比 壮亮 投手、身長188cm、左投げのスリークォーター、決め球はスプリット、そして何より当時の女性人気ナンバーワンのルックス!……まだ33歳なのに去年引退しちゃったんだよね。」
この熱量はポテチののり塩味以来の力説だった。
「由比投手が馬橋学院出身だから、っていうのもあったんだよね。」
「……智裕くんってプロ野球選手をこんなに語ったの初めてじゃない?」
「うーん…俺自分のことに精一杯であまり目に入らなくてさ、だけど由比投手は俺の中で衝撃だったんだよね。しなやかで美しいフォームで鋭い球を投げて、俺もああなりたいって思ったよ。顔は諦めてたけど。」
「顔はって…ふふっ。」
「もー、当たり前だろ、こんなカッコいいんだもん。それに……俺にとっては、神様みたいなもんかな。由比投手になりたくて、小学校の時からスプリット練習してたし、専門書を穴が空くほど読んで、四六時中、由比投手のことばかり考えてたなー。」
拓海を抱きしめながらも、壁の由比壮亮のポスターをキラキラとした目で眺める智裕を、拓海は微笑んで見守った。
「すごいなぁ……智裕くんは。」
「そっかな?」
「うん……凄いよ。だって…あんな風に闘える人って中々いないし、天才だって言われるし……ちょっと寂しかったけどね。」
「……寂しかった?」
「………うん。」
「拓海さん、顔、こっち向けて?」
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