689 / 1000

動き出す夏の恋(11)

 あまりの騒ぎに従業員が駆けつけて、野次馬たちは去って行った。  一起と直倫が軽く謝って収束した。 「はぁ……お前本気出しすぎ。」 「すいません、裕也さんに見られてると思うと張り切ってしまいました。」 「アホか!」  裕也は直倫の膝裏を蹴った。そしてもう1人面倒くさい奴がいた。 「俺だって甲子園で7回まで100球以上投げてさ…そりゃ途中で暴投したりなんだりで降板したけど県大会の決勝では完投勝利してあの赤松直能…いや直能様を空振り三振だってしたし、魔球(フロントドア)だって投げたのにさ、だーれも気付かないよね。あーあ俺ってそんなに存在感ない?これでも高校野球界のエースって呼ばれてんのにさ。」  隅の方にうずくまっていじけている『東の松田』だった。 「仕方ないわよ、あんた球児の中ではイケメンに分類されるけど、ユニフォーム脱いだら中の上か中の中のモブ顔だからね。」 「高梨……そりゃ厳しすぎないか?」 「あら?事実を述べてるだけだけど。」  高梨の刺してくる現実が智裕を傷付けた。 「あ、松田くん、ピッチングコーナーあるよ!9つのストラックアウト!あれならキャーキャー言われるんじゃない?」  そう言って増田がすぐ近くのストラックアウトコーナーを指すと、水を得た魚のように智裕は生き生きとした。 「よっしゃあああ!俺の本気見せてやるぜ!」 「松田、ほどほどにしろよ。」 「そうだよ、病院行ったばかりだろ。こんなことで怪我したら監督に怒られるよ。」  智裕は肩をぐるぐる回して柔軟体操しながら、野村を見た。

ともだちにシェアしよう!