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動き出す夏の恋(12)
(……ここで野村がカッコいいとこ見せれば増田さんも惚れるんじゃね?)
「のーむら!先にお前やれよ!」
「は?」
「いーからいーから!」
智裕は野村の背中を押して、ストラックアウトのケージに強制連行した。
「俺無理だって!」
「球は届くでしょ、ブルペンキャッチャーやってるし。」
「でもコントロールは…。」
「あれ!盗塁刺す時みたいな感じでいけば低めは当たるんじゃね?」
「松田くんってば……はぁ、わかったよ。」
野村は仕方なくボールを右手に掴んだ。
(盗塁を刺す時ね……清田くんと馬橋の畠 くんがすごかったな…あんなイメージかな。)
野村の目は一気に真剣になった。
智裕たちが「頑張れー!」なんてはしゃいでいる中、増田だけは緊張して見つめていた。
シュッ バンッ
「……おいおいおい、マジかよカッちゃん!」
「え、何で部活やめた⁉︎」
「強肩…ですね。」
「野村くん…すっご!」
「松田…あんたこれ引き立て役失敗よ。」
「い、いいんだよ!」
智裕はヒクヒクと口角を上げて、高梨に耳打ちをした。
「これで増田さんが野村にときめくだろ。お、俺の作戦だっつの。」
「ほんとーに?」
疑いの目でジッと見られ、智裕は冷や汗をかく。
野村は結局、1番下の3枚と真ん中1枚を当てて終わった。
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