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エガワくんの吐露⑤
「付き合っては無かったとか言ってた気がします。ただ、その…柴原 さんが言うことが本当だったら…今の俺って何だろうって……ただ面白い奴なのか、身体の相性がいいだけなのか…それに…さっきの松田と石蕗先生を見てて気がついたんです。」
「何が?」
「俺、先生に一度も“好き”とか……ああ言う風に言われたことないなって……“可愛い”とか“煽ってる”とか…まるで揶揄 うような言葉しか……それが好意なのかも分からなくて…。」
一起は俯いて、片手で顔を覆った。肩が震えて、泣いていることが拓海にはわかった。
拓海は箸をおいて、一起に近づいて頭を優しく撫でる。その震えに拓海は覚えがあった。
「不安だよね…俺は、さっきみたいに好きって言ってもらっても、ずっと不安だから。」
「え?」
「だからね、我慢するの少しだけ止めた。流石に人前じゃ恥ずかしくてやんないけど、もっと智裕くんと一緒にいたいし、そばに居れるときは自分の不安が無くなるまで甘えたり…智裕くんはすっごく優しいから全部受け止めてくれて……って俺の方が年上なのに可笑 しな話だよね。」
拓海は「えへへ」と恥ずかしそうに頬をかいていた。
「江川くんはしっかり者だから難しいかもしれないけど、少し我慢を解いてみたらどうかな?そうしたら星野先生の気持ちも解けてくれるかもしれないし……。」
「でも…怖い、です……本当に…俺の心配通り、だったら……怖くて、怖くて……っ!」
「江川くん。」
優しく名前を呼ばれると、拓海は一起の顔を両手で包み、額と額をコツンと合わせた。
「大丈夫…大丈夫だよ……。」
そう呟くと、顔を離してまた拓海は無邪気な笑顔を向けた。
「大丈夫のおまじないだよ。1歩踏み込むことは怖いけど、江川くんは強い子だから出来るよ。俺は信じてる。」
「石蕗先生……。」
一起は額をさすりながら、柔らかく笑った。
その顔を見た拓海は少し顔が赤くなる。
「江川くんって、そうやって笑えるんだね。」
「え?」
「いっつも険しい顔しか見たことないから…ふふ、その笑顔ならみんな江川くんのこと好きになっちゃうかもね。」
「いや…先生には敵いませんよ。」
拓海と笑いあって、一起の心に勇気が植えられた。
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