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マツダくんとユイさんの距離③

 明日、壮行試合1日目の先発を控えている八良は調整程度の練習で追い込むようなメニューを控えていた。よって暇なのか智裕と晃のバッテリーを眺めている。  智裕のフォーム改善による制球と球速の変化には目を見張っていた。  それもこれも全て。 「八良くん、(ひじ)とか張ったりしてないかい?」 「ええ、俺は全然。」  今、八良の隣に立っている投手コーチ、由比(ゆい)の所為だった。  八良は一筋汗を垂らして、唾を飲み込み言葉を吐いた。 「コーチ、トモちんに何を教えたんですか?こない短期間で、フォーム改善だけとかありえへん、と俺は思ったんですけど。」 「あぁ……智裕くんは高校生になってから指導者に巡り会えなかっただけだよ。しっかりした指導をすれば、(おの)ずとああなることは誰でも分かってたはずだよ。君も、そうじゃないのか?」  ニコッと笑いかけられて八良は怪訝な表情をしつつも「そうですね。」と答えた。 「僕はタラレバがあまり好きではないんだけど、もし智裕くんが馬橋の選手になっていれば、怪我もしなかっただろうし、元々天才的なコントロールに磨きはかかっていて、課題の球速や精神力なんかも……八良くんを超えたかもしれない。それほどの実力、才能を持っているんだよ、彼は。」 「えらいトモちんを買ってるんですね。他のピッチャーと明らかに見る目が違う気がするんですけど。」  遂に心のシコリになっていたことをぶつけた。  由比は驚くでもなく、言われることがわかっていたかのように笑った。

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