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アカマツくんの遠い世界⑤

「あの仏頂面はウチの金谷とええ勝負やけど、普通に話したらええ子やったで。トモちんも最初なんや…あのシュッとしたにーちゃんを聖斎に返せーて喧嘩売られたみたいやったけど、由比コーチが仲裁に入って今ではすっかり仲良しやで。」  「シュッとしたにーちゃん」とは直倫のことだと裕也はすぐに理解した。  そして今、智裕が悩んでいたきっかけだった島田が智裕とマウンドでハイタッチしているシーンは裕也にとって見るに耐えないものだった。 「せや、トモちんって年上の彼女おんのやろ?」 「彼女?」 (そういやさっきブルペンでも年上の女教師がどーだこーだって……もしかして年上の女教師の彼女ってツワブキちゃんのことか。性別以外は合ってんな。) 「俺からは言えへんし、その彼女に代わりに伝えといてくれへん?」 「何をですか?」  八良が(しか)めた目線の先には智裕がベンチに戻って、由比に腰を抱かれて話を聞いてもらっているところだった。  智裕はグラウンドから背を向けているので表情はわからないが、由比は何度も何度も笑顔で頷いていた。 「由比コーチ、絶対トモちんをオンナとして狙っとるで…って。」  「既に手遅れです。」とは裕也は口に出せなかった。

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