993 / 1000

旅の前の日⑥

 里崎は「はあぁ…。」と深ーいため息を吐いて、宮西はニヤニヤとして、井川も苦笑いを浮かべながら顔を真っ赤にする。 「松田ぁ。」 「な、何だよ。」 「お前、帰って来る頃にはケツ穴処女も卒業してっかもな。」 「するかぁぁぁぁぁぁ!」  宮西の下世話な一言に智裕が叫びツッコミを入れると、いつの間にか担任の裕紀に背後を取られて70%程の力のチョップを食らった。 「脳内下半身発情猿は黙れ。そして旅行中のわいせつ行為は禁止な。」 「ほっしゃーん…勘弁してー。俺月末まで会えなくなるんだからさー…拓海さんの誕生日だって当日いないんだしさー、どっかで1時間くらいセックスさせてくれよー。」 「だったら今日のうちに済ませとけ。」 「何そのトイレの休憩みたいな言い方…。」  期待は出来ずにそのまま机に突っ伏して智裕は不貞腐れた。  里崎と宮西は呆れて放置を決め込む中、井川は恐る恐るだが智裕の肩を優しく叩いた。 「松田くん、本当に石蕗先生が好きなんだね…。」  井川は自分で発したその言葉に少しだけ傷付いていた。 「んー……ちょー好きー……だよ。」  井川の方に顔だけ向けると智裕はだらしなく笑う。 「だから離れんのちょー寂しーし……それに……。」  智裕は言葉を詰まらせた、というか呑んだ。  井川はその違和感に気がついたが、ただ笑った。 「とにかく俺は1秒でもいいから修学旅行で拓海さんとイチャイチャしてぇんだよおおおお!」 「あー……泣かないでぇ……。」  井川は智裕を慰めるように頭をそっと撫でた。その手が熱くなる。 「井川ってやっぱ菩薩級に優しいなぁ…うん、あんがと……ちょっと元気出た。」  また智裕は無邪気に笑う。その笑顔は今の井川にとって残酷で、胸がツキンと痛んだ。

ともだちにシェアしよう!