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旅の前の日(12)
(井川さん…って、すごく良い子で…可愛い子で……本当なら、ああいう子が智裕くんの隣にいる方が…こうしてこそこそしたりせずに済むんだろうけど……。)
そこでよぎるのは、神宮球場での兄の言葉。彼の言葉に当日は反抗したが、冷静に考えれば正しいことなのだろう、と。
(僕とこんな関係じゃなかったら、智裕くんは修学旅行は好きな女の子と楽しい思い出を作ることだって出来たかもしれないのに。僕は…僕は、智裕くんの邪魔しか出来てないのかな…。)
「ツワブキ先生!」
拓海が、弱くて沈みかける、そんな時にいつも助けてくれるのは、悩みのタネの、愛しい人。
「ツワブキ先生、あのさ。」
少しだけ息が上がっていた智裕は、キョロキョロと辺りを警戒しつつ、拓海の耳元に近く。
「明日、明後日、必ず会いに行くから。」
そして気付かれないように、そっと拓海の髪にキスをする。
された拓海は、泣きそうになった目を堪えて、笑顔を向ける。
「うん…俺も、会いたい。」
「へへ…じゃあな!今日はゆっくり休んで、ね。」
ひらひらと手を振るその仕草も、全部輝いて見えた。
「大好き、だよ……。」
きっと智裕には聞こえないだろうけど、呟かずにいられなかった。
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