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キヨタくんの懸念⑤

 リビングのソファから前のめりになってテレビ画面を見ていると家事を終えた母親が呆れて声をかけてきた。 「恭介、遅くまでテレビばっか見てないのよ。」 「うるせーよ。ちょっと静かにして。」 「……恭介、あんたプロ野球選手にでもなりたいの?松田くんは元々の能力が違うだけで、あんたは凡人なんから無理よ。」 「わかってるって。そうじゃねーよ。」  母の言葉に(いら)立ちながら、恭介は画面から目を離さない。 (何処が自信ねぇんだよ。全然出来てんじゃん、俺なんかより。)  恭介の傍には新しいメモ帳とペンが置かれていた。まだ書き込みはされていない。 『練習後のストレッチ中、すっかり打ち解けた様子のナインたち。いじられ役の中心には松田智裕投手。天才左腕も、マウンドを降りたら普通の男子高校生でした。』  オフショットのような映像。智裕の隣には晃がいて、人見知りの晃が周りと溶け込み八良やライバルである後藤らと智裕をいじり倒して笑っていた。 『唯一の1年生、島田(しまだ)(ツバサ)投手も…松田投手の背中に自分の腕を冷やしてた氷を入れるお茶目なイタズラ。いい雰囲気の中スタートしていますね。』 『そうですね、やはりポジション争い等でこういう練習はピリピリしがちなのですが、この和を作れることで世界一奪還出来るのではないのでしょうか。』  恭介はテレビに映る智裕のアホ面に向かって盛大な舌打ちをした。 (なんか、やっぱ…ムカつくわ。)  その様子を見た母は呆れたようにため息をついた。 「恭介、顔、怖いわよー。」

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