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エピローグ

「遅っせぇ〜よ! 急げって、若波!」 「授業始まんぞー」 「ちょちょ、ちょっと待ってって!  靴紐がっ」 「もぉ〜、あたしが担いでってあげようか? 若波くん軽そうだし」 「きゃー、エリカ男前」 「え、遠慮するよっ!」 今年もまた、あの季節が近付いて来た。 きっとこれからも、夏になるたび、彼のことを思い出すのだろう。 忘れようとした覚えはないから別に構わないのだけれど。 夏の終わりと共に僕の前から居なくなった彼は、 やっぱり夏そのものだったのではないか、などとおかしなことを考えてしまう。 ――それだけ失ったものが大きかったのは確かなのだ。 けれど、 僕は今でも人の目を見て話すことが好きだ。 僕は今でも、夏が好きだ。 だからまだ、何も終わってはいないんだ。 イカロスも自分でわかっていたのだろう。 その翼が小さな羽を集めて繋げたガラクタだということを。 繋げているのが、太陽の熱で簡単に溶ける蝋だということを。 当然、僕もわかっていた。 ――けれど僕の方は、 太陽に近付き過ぎたのではなくて、 近付くことを恐れ、 中途半端な距離で必死に羽ばたきすぎて空中分解していたのだと、今ならわかる。 こんなに違うのに、どちらも落下速度は同じなのだから笑ってしまう。 新しい夏が来たら、今度は少しだけ、 勇気を出してみるのもいいかもしれない。 僕の嫌いなあの英雄のように。 end.

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