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第3話
「ねぇ、桜井くん…離して、痛いよ…。それに、僕には触れないでって言ってあるよね?」
しかし、彼は僕から一向に目を逸らす気がないようだ。じっと見つめられ、後ずさりそうになるが、壁に追いやられているので逃げられない。
「はぁ…。美好さん、嘘つくのやめましょうよ。」
「え…な…ッッ!」
なに、と言う前に唇に柔らかいものが触れる感触。
なにこれ……
我に返った瞬間、それが桜井くんの唇だということに気付く。
「なにして…っ!」
驚きのあまり、反射的に桜井くんを突き飛ばした。
いま、何が起こった?何が起こったんだ?
……どうして、キス……?
「ふふふ…、ははっ!」
僕の頭の中が大混乱してる中、いきなり、桜井くんが腹を抱えて笑い出した。いつもの彼では信じられないくらいの…、黒い笑みで。
『あんた、俺に惚れてますよね?』
この男は…何を、言ってるんだろう。
「俺、あんたにキスしたんですよ?」
だから何?なんだって言うんだ。それが君を好きな理由とでも言うのか。
『過呼吸どころか、叫び声1つあげませんでしたね、《千景 》さん。』
この時まで、忘れていた。
僕は君なら平気だということ。
だけど、まさかキスまでもが平気だとは思わなかったんだ。
「しかも俺以外の人間は本当にダメな潔癖症。これって、千景さんが俺の事を好き以外考えられないですよね?」
好きなんかじゃない。
でも、もし自分が気付いていないだけなら、僕はどうしたらいいんだろう。
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