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第2話
『美好さんに聞こえようにコソコソ話すのやめろよ、お前ら。みっともねぇ。…美好さんも黙ってないで言い返したらいいじゃないですか。悔しいでしょ。』
1人の部下が立ち上がりこう言い放った。
『桜井 斗真 』くん。アルファな事もあってか、仕事もよく出来る男だ。……そんな彼に対して僕は『秘密』があった。
「えっ、いや…。いいんだよ、桜井くん。悪いのは、僕だから…。」
桜井くんは皆に対して怒ってくれたが、文句を言われたって、結局悪いのは僕なんだから文句の1つも言えやしない。
いや、言えるわけがないんだ。
「…はぁ、美好さん、ちょっと来てください。」
「え、わっ、ちょっとまって…っ!」
腕をぐいっと掴まれ、廊下へと連れ出される。
潔癖症のはずの僕。なのに腕を掴まれても叫び声ひとつ上げないのには理由があった。
……桜井くんは『平気』なんだ。
きっとキスとかはできないだろう。でも、腕を掴まれるくらいなら特に問題ない。
何故かは分からない。
ただ、1つ分かることは彼以外はダメってこと。きっと彼以外に腕なんか掴まれた日には泣き叫んで過呼吸になるだろう。
しかし、そんな事実はバレてはならない。だって、そんなに親しくもない僕に「君は平気」と言われた所で気持ち悪いだけじゃないか。それに他の部下達がどういう反応をするかなんて分かりきってる。ただ[気持ち悪いオメガ][アルファ好きのオメガ]と変な噂をでっち上げられるに決まってる。
だから、君にだけは『わざと』潔癖症の振りをした。みんなと変わらないような態度をとって。みんなを見るような目で君を、見た。
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