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第1話
人に触られるのが嫌い。人の触ったものが嫌い。自分のものを触られるのが嫌い。嫌い。全部嫌い。
……そんな自分も大嫌い。
汚いアルファ、汚いベータ。
そして僕は、汚れたオメガ。
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「美好 さん、この資料確認してもらっていいですか?」
「ん、あぁ。そこに置いといて。」
デスクにそっと置かれた資料を目で追う。嫌だな、資料確認。
誰かの触れたものが嫌い。紙でも嫌だ。
潔癖症である僕は人に触れられない。手袋が無いと家から出られない程だ。
「佐々木くん。ちょっとここ間違ってるからやり直して貰えるかな。」
「あっ、はい。すみません。」
資料を手渡しした時、佐々木くんの髪が1本落ちるのが見えた。
「ぅわっ…!」
咄嗟に声を上げる。ダメだ、失礼だと分かっている、分かっているのに人の髪の毛が落ちただけで過呼吸になりそうだ。
「…あぁ、汚くてすみませんね。美好さん。気を付けます。」
佐々木くんが嫌そうな顔で謝り、落ちた髪の毛を拾い上げる。
君のせいじゃないのに、僕のせいなのに謝らせてしまった罪悪感が押し寄せてくる。
『うわ、また美好さんの潔癖が出たな』
『佐々木くん、可哀想…』
『なんで潔癖症のやつが課長なんだよ。めんどくせぇ。』
みんなのヒソヒソ声が耳の奥に響いてくる。
僕だって、潔癖症になりたくてなった訳じゃないのに、どうしてそんな事言われなくちゃいけないんだ。
だけど、結局すべて悪いのは僕で。
なにも言えずに僕は、ただただ黙ることしか出来なかった。
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