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第6話

「俺なら平気とか、本当にタチ悪いです。」 「君よりはましだよ。人に期待させといてすぐに突き落とすんだから。」 好奇心、その言葉が今も胸に突き刺さったまま。 君の言葉がこれほどの重みだとは思わなかった。 「そんな事ないです。美好さんこそ俺に期待させといて裏切った。」 桜井くんの意外な言葉に驚く。 僕がいつ君に期待なんてさせたんだ。 「僕は桜井くんが期待するようなことした覚えはないし、絶対してない。」 「しましたよ。俺だけは触っても美好さんの額に汗が滲んだり、嫌な顔で唇を噛み締めることなかったから、この人は俺の事好きなのかなとか思いました。」 だからなんだと言うんだ。 じゃあ僕はどこで君を裏切ったんだ。 「それなのに、美好さんは俺にまで潔癖の振りするし、わざと嫌がるし。もうめちゃくちゃ傷つきましたよ。」 ……納得した。 気付いてたならもう少し早くに言ってくれても良かったのに。 『一目惚れだったんです。』 「は?」 桜井くんの口から信じられない言葉が落ちた。 「初めて見た時から「この人は俺のオメガだ」って確信してました。それからずっと美好さんのことを見てました。潔癖なところも好きだし、実は嫌いな資料チェックも顔に出さずにするし、そんな所に俺はますます惹かれていました。」 「え、本当に…?」 色々展開が早すぎて頭が追いつかない。 桜井くんが僕を好きで、僕が桜井くんを好き……? 真剣な目で僕を見つめる彼は本気なんだと分かった。 「……本気にしてもいい?」 「はい、勿論です。」 桜井くんの言葉と声を聞いて、今まで抑えていた感情が涙となって溢れ出してきた。 「僕、君に嫌われたくなくて…ッ、なにも言えなくて、もうこのままでいいって思ってて……っ!」 「知ってます。だから、おれが今告白したんですよ、千景さん。」 彼が僕の名前を自然に呼び、そして優しく包みこむように抱きしめてくれる。 こんなに人の温もりが気持ちいいと思ったことは無い。 「ねぇ、千景さん。これからはさ、」 急に桜井くんが俺の目を見つめ直した。 そして、 「俺だけに見せる顔、見せてよ」 こういった彼の表情は、先ほどの黒い笑みではなく、すこし照れたような、喜びに満ち溢れているような笑顔だった。 「その代わり、君だけのオメガにしてね。斗真くん。」 「ッッ!…はい、勿論です。」 ______________________________ うなじを噛まれたあの日、幸せという言葉では言い表せない程の幸せを感じたこと、今でもよく覚えている。

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