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第10話

顔を歪めたまま、長谷川さんは話し続ける…… 「初めてここにきた日、君は寝てる俺を見て『駄目だ』と言ったじゃないか……俺とじゃ、駄目ってことだろ?」 「────え?」 「最初は確かに寝てたけど、途中で目が覚めたんだよ。気づかなかった?……覚めなきゃ、聞かずに済んだのにね」 長谷川さんは笑った……寂しい笑顔で。 「……うそ……いつから起きてたの?」 「高瀬君が手を握ってくれたところから……君から俺に触ってくるなんて珍しいからね……寝てるふりしてたんだ」 あの日自分がしたことを思い出して、あまりの恥ずかしさに全身が熱くなる。 お互いの手のひらを重ねてみたり、指と指を絡めたり、ぎゅっと握ってみたり……長谷川さんが寝ているのをいいことに好き放題にしたこと、全部知られていたなんて…! 「寝ているふりをしていても、君が僕に顔を近づけてくるのは分かった……このままキスでもしてくれるのかな……なんて思ってたら『駄目だ』の一言だし。男相手じゃあ無理だった……これが本音なんだろう、って」 「──あのっ、誤解です!」 あのときの『駄目だ』の意味はそんなではない。 誤解であることは間違いないんだけど…! 「いいんだよ、無理しなくて…」 自嘲した笑顔に、ますます胸が苦しくなる… 「告白したのも俺からだし…君から俺に触ってくれることなんてほとんどないし…何度会っても気を張ってるみたいだし…」 ───そのどれもが本当なんだけど…でも、それは長谷川さんがいやだからじゃなくて…! でも、何て言ったら分かってもらえるの? 「いつまでも君を縛り付けておくわけにはいかない……大学時代の大事な時間を僕のために無駄にしてしまってごめん……」 無駄なんて……無駄なんて、そんな…… 「君が別れたいっていうなら、それでいい……受け入れるよ……」 「……………」 自分で言いはじめたことなのに、どうしてこんなに胸が苦しいんだろう。 それが一番いいって結論を出したはずなのに、もうこの人に会えないんだと思うと、息が吸えない。 切ないって、こういう気持ちのことをいうのかな…… 足に力が入らないよ…… 「……別れてもいい。もう、君に触れなくてもいい。触ってもらえなくてもいい───でも」 長谷川さんの、大好きな優しい大きな手が、やっぱり大好きな優しい顔を覆い隠した。 「できるなら、ときどきは会ってほしい……君に好きになってもらえなくてもいい。友達でいい……いや、ただの知り合いでいいんだ。君のいない日々なんて、もう……」 長谷川さんは伏せていた顔をあげて……息を飲んだ。 「───ごめん!無理ならいいんだ!そんなに嫌ならもう会わない!……頼むから、泣かないでくれよ……」 ───泣く? そろそろと手をあげて頬に触れて、はじめて気づいた。 ───僕は泣いていた。

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