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第9話
────やっぱり、そうなんだ。
頭の中が真っ白になった。
……予想が本当になったなら、決めていた通りにしなくちゃ……
「冷やしたら、腫れもひくよ。ちょっと待ってて」
「──あの……もう、いいです」
シンクに向かおうとした長谷川さんを呼びとめると、きちんと顔を合わせる。
つらい思いもしたけど、一緒に過ごした時間はどれも楽しかった。
たった2ヶ月だけど、幸せだったから……だから、きちんとお別れしなくちゃ……
「長谷川さん」
「ん?」
「僕はもう、あなたとお会いしません」
「…………何、言ってるの?」
「これ以上お付き合いしても、長谷川さんには何もいいことなんてないです。僕はやっぱり男だし」
「……そんなことははじめから分かっているよ」
「ちっとも大人になれなくて、分からないことだらけで、あなたの横にいても少しもつりあわない」
「…………」
「あなたを幸せにできるのは、僕じゃないんです」
「……高瀬君……」
「──本当は、長谷川さんも分かっているんでしょ?僕ではダメなこと……」
だから触らないんでしょ?
距離をとりはじめたんでしょ?
「……それは違う。君のこと、駄目だと思ったことは一度もない」
あーあ、最後の最後まで、僕のことなぐさめてくれなくっていいのに…
そんなことされると、離れにくくなっちゃうよ…
「ありがとうございます……でも、もういいんです」
ぺこりと頭を下げて、さあ、あとは『さようなら』を言うだけ。
口を開いたそのとき…
「──俺じゃ駄目なのは、君のほうだろ。俺が好きじゃないから、もう会わないんでしょ?」
長谷川さんが思ってもないことを言い出した。
「なんとなく興味があって付き合いはじめたけど、いざ先に進むことを考えると怖くなった?」
これまで聞いたこともない、感情を取り払ったような声。
「───それとも、男が相手だなんて、気持ち悪くなった?」
すっと血の気が引いていくのが分かった。
こんなに酷いことを、本当に長谷川さんが言ってるのだろうか……あの優しい人が…
恐る恐る顔を見ると……長谷川さんは顔を歪めて、今にも泣きそうだった。
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