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第12話

不意を打たれたせいだろうか……長谷川さんは僕を抱えたまま、後ろに転がってしまった。 「…………痛たた……高瀬君、大丈夫?」 「…………」 長谷川さんの心配そうな声は聞こえないふりをして、僕は抱きついた腕に力を込めた。 絶対、絶対はなさないんだと、ぎゅうぎゅうしがみついた。 ぼろぼろ流れる涙が長谷川さんのシャツを濡らしているけど、そんなの構っていられない。 ……長谷川さんが触ってくれないんなら、僕が触るんだ。だって、こんなに好きなんだから…… 「…………」 ふわっと優しい感触がした。 ……何にも言わずに、長谷川さんが僕の髪を撫でてくれた。 『よしよし』と宥めているよう…… いつもの優しい手だった。僕の大好きな手。 それが嬉しくて……嬉しくて…… 「……好き……大好き……」 何度も何度も繰り返し伝えたんだ。 「………ねぇ、高瀬君」 「………うん……」 二人、廊下に転がったまま。 ようやく涙もとまって、これまでにないくらい体をくっつけている。 胸にぺったりと耳をつけて鼓動を感じていると、ぼうっとしてしまう…… 泣きすぎて疲れちゃったのかもしれない…… 体温も気持ちよくて、うとうとしそう…… 「………キス、しよっか」 「………うん……う、うん!?」 ────キ、キス!? ガバッと顔をあげると、長谷川さんと目が合う。 「キス、しよう!初めてのキス!」 「───えーっ!そ、そんな、勢いで!?だいたい、ムードがなさすぎですよ!」 初めてのキスがここ?ここで!? ここは廊下ですよ! 「まあ、いいからいいから。だって今、どうしてもしたいんだもん……駄目?」 ……『駄目?』って、ダメだけど! でもおねだりされると弱くて……思わず頷いてしまう。 嬉しそうに笑うと、長谷川さんは僕の後頭部に手を伸ばし、自分のほうへゆっくり引き寄せた。 二人の顔が少しずつ近づいて…… ───そうっと、触れるだけのキスをした。 「───ふふ。ファーストキスは涙味だったね」 長谷川さんが恥ずかしいことを言うから、僕の顔はボン!という音がする位、爆発的に赤くなった。 もー! もー! もー! 顔を隠すためにまたぎゅっと抱きついたら、何度も何度も髪を撫でてくれた。 長谷川さんが楽しそうに笑っている。 「───キスだけで、この騒ぎだからね。ここから先に進んだら、どんなことになっちゃうのか……楽しみだね」 「ここから、先?」 キスから先ってことは……? …………… ん? え? あー! うわー!! 『先』を想像して赤くなったり、青くなったりする僕を抱えたまま、長谷川さんはとっても幸せそうに笑っていた。 僕たちが先に進むのは、もう少し後のお話になりそうです…… end

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