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伸びる

「あれ?ちょっと背が伸びた?」 食後のコーヒーを準備している啓吾さんの横に立つと、何気なく言われた。 自分ではよく分からないけれど、今でも少しは背が伸びてるのかもしれない。 「さすが学生だなー。俺なんかもう縮むしかないよー」 楽しそうに笑いながら、冷蔵庫から牛乳パックを取り出した。 「…………」 鍋をコンロに置いて、牛乳を入れようとしている… 「………あの!」 ん?…と啓吾さんは振り返る。 「……今日はココアじゃなくて、コーヒー飲みたい」 「コーヒー?……珍しいね」 「…………」 コーヒーは好きじゃない。本当は飲みたいわけじゃないんだけど…… 「じゃあ、カフェオレにしようか?」 「ううん、ブラックにする……」 絶対飲めないんだけど…… でも。 でも、牛乳はもう飲まないようにしようと思って……これ以上背が伸びたら困るから。 啓吾さんは僕のこと、かわいいって言ってくれる。 それはお世辞だって分かってるけど、言われたらやっぱり嬉しい。 でも、これ以上背が伸びたら、もうかわいいって言ってくれなくなるかもしれない……大きい男に『かわいい』って言葉、似合わないと思うかもしれない…… そんなの、やだ…… すると、啓吾さんは僕の頭をわしゃわしゃと撫でて、鍋に牛乳を入れると火にかけた。 「──あ、ダメ!」 慌てて止めようとすると、啓吾さんはチュッと軽くキスをしてくれた。 「─────!」 「───やっぱりあと3センチ位は欲しいなあ」 ……3センチ? 僕の身長のこと、言ってるの? 「もう少し背が伸びたら、もっとキスしやすくなるんだけどなあ」 ……キ、ス……キス!?……顔が赤くなるのが分かる。 急にそんな話、するから…!でも…… 「………背、伸びてもいいの?」 「もちろん。伸びても伸びなくても、悠希は悠希でしょ?」 「………大きくなって、かわいくなくなってもいいの?」 「そんなこと考えているところが、すでにかわいいんだけどね」 そう言って、啓吾さんは楽しそうに笑った。 「俺は悠希自身が好きなの。小さくても大きくても悠希はかわいいし、かっこいいし、魅力的です」 僕はもう、恥ずかしくって両手のひらで熱くなった頬を押さえた。 そんな恥ずかしいことを恥ずかしげもなく言ってくれる啓吾さんのほうが、よっぽどかっこよくて魅力的だよ。 「あー、ココアを飲んで幸せそうな、悠希のかわいい顔、見たいなあー」 なーんて、言ってくれるので……棚からココアの袋を取ると、啓吾さんのところへ運んだ。 袋を受けとるとにっこり笑って、今度はごほうびのキスをくれた。 end

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