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どっちにする?
「ねえ、悠希はネコとイヌ、どっちが好き?」
朝食を食べ終わってコーヒーを飲んでいた啓吾さんが、突然尋ねた。
フレンチトーストの最後の一口をほおばっていた僕がむぐむぐとあわてて口を動かすと、「食べ終わってからで大丈夫だよ」と啓吾さんは微笑んだ。
その優しい瞳にドキドキしながら飲みこむと、いつものマグカップに啓吾さんがいれてくれたココアをこくり。ようやく返事ができるようになった。
「ネコとイヌ?」
「そう、ネコとイヌ。どちらか選ぶならどっちがいい?」
「……えーと」
ネコ?イヌ?どっち?
さっきまでの会話と全然つながりはないんだけど、急にどうしたのかな……不思議だけれど、啓吾さんはいつもと同じ自然体。
突然思いついたのかもしれない。この質問を。
「実家で飼ったことがあるのはウサギなんだけど」
「へえ、ウサギ飼ってたんだ。一匹?」
「はい。妹がどうしても飼いたいってねだったんです。学校の飼育小屋で飼ってたウサギが赤ちゃんを産んで…」
「ああ。それをわけてもらったんだ」
「うん。でもだいぶ前に死んじゃって……あ、でもばあちゃんの家にはネコがいます」
「じゃあ、ネコ派?」
ネコ派……かなあ。でもばあちゃんのネコは気まぐれで、僕にはちっともなつかないからちょっと苦手。だとしたら……
「うーん……でも、イヌかな。イヌがいいかも!」
僕、散歩するの好きだし。啓吾さんと僕とイヌと、一緒に公園で遊んだら楽しそう!
ようやく結論が出た僕に啓吾さんはにっこり笑うと、立ち上がってリビングから箱をとって戻ってきた。
救急箱?
「……啓吾さん、どこか悪いの?」
「ううん、そうじゃないよ。心配してくれてありがとう」
「なら、どうして救急箱?」
「うん。確かね、前にショッピングモールで抽選券をもらって。結局クジは外れちゃったんだけど、参加賞をもらったんだ」
クジ?参加賞?
答えになっているのか、なっていないのか……啓吾さんの返事の意味がよく分からなくって手元を覗き込むと…
「……絆創膏?」
薬の箱と箱の間から、可愛いイラストのプリントされた絆創膏が出てきた。イヌのイラストとネコのイラストと一枚ずつ。
啓吾さんは真ん中に入ったミシン目で綺麗に切り取ると、ネコの絆創膏を救急箱に戻した。それからイヌの方の包装をさっとめくると…
「え?……何?」
絆創膏を僕の首筋に貼ってくれたのだ。
あわてて上から触るけれど、何にも感じない。テープを貼られた感触だけ。痛くも痒くもないんだけど。
「啓吾さん、僕、怪我なんて…」
訳が分からず啓吾さんを見ると……いたずらっぽくにっこり笑うと、僕の口唇に人差し指を当てた。
「怪我はしてないけれど、今日はそれ、剥がさないで。誰にも見せちゃダメだよ」
そう言うといつの間に持ってきたのか、ソファに置いていた僕のタートルネックのセーターをぽふっと頭から被せてくれた。
分からないままとりあえずセーターに袖を通すと、啓吾さんはまたまたにっこり。僕はますます困惑する。
そんな微妙な僕の顔がおかしかったのか、啓吾さんは声を上げて笑うと言った。
「ごめんごめん。いつもは気をつけてるんだけど、昨日はうっかり失敗したみたい。セーターから見えることはないと思うんだけど、念のためね。俺以外が見るのは嫌だから」
失敗?念のため?
ますます分からなくなる僕に啓吾さんはからからと笑うと、耳もとに口唇を寄せて正解を教えてくれた。
「ごめん……昨日悠希の首に、キスマークつけちゃった」
「え?は?キ……キスマ……?えっ!?」
ぼんっと顔が赤くなった僕に啓吾さんは大笑い。それがちょっぴり悔しくちょっぴり恥ずかしくって、犬かきみたいにしてじたばた啓吾さんの身体を叩いた僕なのでした。
end
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