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つながる 第1話
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大学が冬休みに入っても、社会人である啓吾さんが休みになるわけではない。
バイトの時間だって急に増えるわけでもなく、暇な時間ができた僕は、気のおけない友人たちと集まっては、1日をだらだらと過ごしていた。
で、その帰り。いつもは使わない駅から電車に乗ろうと時刻表を見てみたら、あいにくすぐには電車が来ないようだ。
……30分……何しようかな…?
駅を出て見ると、目の前にはちょっとした大きさの商業ビル。
ここなら時間が潰せるかも…?
特に目的があったわけでもなく、気まぐれに入ったビルで、僕は、思いがけない再会をすることになる。
入り口から入ると1階には花屋と雑貨屋、化粧品を売るお店……ここで時間を潰すのは、ちょっと居心地が悪いかな…
きょろきょろと見回すと、2階へ上がるエスカレーターを見つけた。さっそく、利用して上のフロアへ移動する。するとそこには、なかなかの広さの書店があった。
ちょっとほっとして中に入ると、ゆっくりと店内を見て回る。
何か立ち読みしようか……それとも面白そうな本でも見つけて買おうかな……明日は予定が入ってないし、時間潰しになるような本。
そんなことを考えながら台に並んだ本のタイトルを見ていると。
「───あれ?……もしかして、高瀬君?」
突然、名前を呼ばれた。
びっくりして顔をあげると、深緑色のエプロンを着けた店員が立っていた。
……誰、だろ?本屋の店員に知り合いなんて、いないけど…
僕よりも少し低い身長……眼鏡の奥の目は大きくて……
よほど僕が怪訝な表情をしていたのだろう。店員は苦笑しながら口を開いた。
「ごめんなさい。もう覚えていないですよね。僕、内村です。あの、君が長谷川さんと一緒にお見舞いに来たときに会った…」
お見舞い…?
啓吾さんと…?
与えられたキーワードをヒントに考えていると…
「───あ!あのときの!」
ようやく記憶が繋がった。
啓吾さんのお友達の田中さんのお見舞いに行ったとき、田中さんの部屋にいて看病をしていた後輩さん……いや、恋人さんだ。
そんな僕を見て内村さんは優しく笑うと、「よかった」と言った。
「すみません!すぐに思い出せなくって…」
「いやいや、ちょっとだけ話したことのある人のことなんて、覚えてなくて当たり前だよ。それに…」
内村さんはいたずらっぽく笑うと、エプロンをひらひらと揺らした。
「僕、こんな格好だしね。あのときは仕事の話なんてしなかったから」
「内村さんは本屋の店員さんだったんですね」
そう言う僕ににっこりと笑った顔がとってもかわいらしくて、歳上には思えない…
「高瀬君は大学生なんだよね?今は冬休みかな?」
「はい。で、友達と遊んだ帰りに、ここに……あのー…」
「時間潰しにきた」と、面と向かって本屋の店員さんに言うのはさすがにためらわれて、言葉を濁していると…
「いいんだよ、立ち読みにきたって。そんなときに夢中になる本と、出あうこともあるものだからね」
……僕の考えていることなんて、お見通しだったようだ。「気にしなくていいんだよ」と微笑んでくれた。
内村さんはちらりと時計を見ると、「そうだ!」と僕に尋ねた。
「……今日はバイトとか、ない日?きっとあの二人は仕事で帰りが遅いんだから、お茶でも飲んで帰らない?僕、もうすぐ上がりだから」
「えっ?でも…」
「近くに美味しいケーキを出すカフェがあるんだけど、ひとりじゃ入り辛くて……付き合ってくれたら嬉しいんだけど……どう?」
……僕も甘いもの、大好きだし……もっと内村さんと話がしたいと思った。
僕と同じ、同性と付き合っている男の人と知り合ったのは、内村さんが初めてだから。
「……じゃあ、店内で待ってます」
僕の返事を聞いて、内村さんは本当に嬉しそうに笑ってくれた。その笑顔がドキドキするほど綺麗で、男性の田中さんも好きになった理由が、何となくわかる気がした。
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