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第7話

啓吾さんが優しい手で僕の頬を、こぼれ落ちた涙を拭ってくれる。 「……あ……ごめ…ん、なさい……」 慌てて謝ると、啓吾さんは優しく微笑んで「どうして?」と尋ねた。 「謝る必要なんてない。『ごめん』なんて言わなくっていいのに」 「……でも……」 だって、本当につらいのは…本当に悲しい想いをしているのは…僕じゃなくて、啓吾さんなんだから。 啓吾さんは泣いていないというのに、僕が泣くのはおかしいと思うんだ。 手の甲で瞼をごしごしこすると、啓吾さんはちょっと困ったような顔でまた微笑んだ。 「もしあの頃、悠希と出会っていたなら…きっと一緒に大泣きしていたんだろうね」 「え?」 「で、泣いて泣いてすっきりして……もっと早く、気持ちの整理ができていたのかもしれない。悠希がそばにいてくれると、それだけで俺は安心できるから」 「……………」 「悠希?顔、真っ赤だけど?」 「だっ!だって!啓吾さんが恥ずかしいことばっかり言うから!」 そんなこと言われたら、何だか自分がすごい人になったみたいに、勘違いしちゃうしっ! 恥ずかしくなって大きな声を出した僕を見て、啓吾さんはからからと笑うと、そのまま僕をぎゅっと抱きしめた。 「もうっ。こんなことしてもごまかされないんだからね!」 「あはは、ごめんごめん。今日は急で心の準備ができてなかったけど…」 「ん?」 「今度、ちゃんと愛里を紹介する」 「え?いいの?」 だって、紹介したくないって思ってたはずなのに… 思わず身体を離そうとして…でも、啓吾さんの腕は僕を自由にはしてくれなかった。 「うん。悠希のことは信じてるし、自分のことも信じてみようかと思って」 「……啓吾さん……」 「でもね…ちょっと、覚悟はしておいてね」 「え?覚悟って、何の?」 「それはまあ、会ってみたら、分かるよ」 そう言うと啓吾さんは、僕をしっかり抱き直したかと思うと、なぜか深いため息をついた。 「─────きゃああああああ!!!かわいいっっっ!!!」 「えっ!?あっ!?うわあああ!!」 5月3日憲法記念日。 さっそく啓吾さんは愛里さんと会う約束を取り付けてくれたんだけど……くれたんだけど!? 「けっ、啓吾さーんっ」 「な?だから、覚悟が必要って言ったでしょ?」 助けを求める僕に、啓吾さんはそう言って肩をすくめたけれど、そんなの全然助けになってないし! 僕と啓吾さんと、啓吾さんの家の玄関で愛里さんをお迎えしたのだけれど…愛里さんは僕を一目見て大きな声で謎の悲鳴をあげたあと、いきなり初対面の僕に抱きついてきたのだ! 「愛里はねー、『かわいい男の子』が大好きなんだよ…相手次第では今みたいに、ぎゅっと抱きついてしまうんだよねー…」 啓吾さんは、やれやれといった感じでそう言ったけれど──それならそうと、先に教えといてください! それから「だから、紹介したくなかったんだよねー…」とつぶやくと、啓吾さんはようやく僕から愛里さんを引きはがしてくれたのだった。 ───啓吾さんの過去を知って、二人の距離が近くなった気がする反面、啓吾さんにはもう一度、温かい家族をもつことが必要なんじゃないかって……そんなことを考えたゴールデンウィークだった。 end

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