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いつかの日の前1

 仕事が終わって家に帰ると、通路に面したキッチンの窓からぼんやりとリビングの明かりだけが漏れていた。  例の手紙が届くなら、そろそろなんだよな。そう思いながら鍵を開け、明かりはつけないままゴミ箱を覗きこむ。  そこにはフリーハンドながら丁寧に開けられた市からの封筒と、滅茶苦茶に破かれた手紙がむなしく転がっていた。暗さも相まって途切れ途切れの文字は読めないけれど、内容はすっかり覚えてしまっている。 “厳正な審議の結果、今回の申請による里親登録は見送らせていただくことになりました。”  送付の日付だけが違う手紙を、10年以上付き合っている俺と恋人は何度も目にしている。  市に問い合わせても、何がどうだめなのかは教えてくれなかった。そういう決まりなのだという。  東京で就職したあと実家の歯科医院に戻って働く俺と、そこそこ規模の大きい金属系加工会社で高校卒業後からずっと働いているまこ。収入だけなら、そのへんの家庭より稼いでいる。住む環境が悪いのかとファミリー向けマンションに引っ越してみても、答えは変わらない。  まこは職場で同性のパートナーがいるとカミングアウトしてまで残業や出張を減らしてもらっていた。男性率が9割を超える会社じゃ居づらくなっただろうし、出世コースからも外れただろう。  数年前、関西で同性カップルの里親認定がされたとニュースになって以降、続々と各市町村で同性カップルの里親登録がすすめられている。今さら珍しくもないのか、今ではニュースで見ることさえない。  それなのに、うちの市のお偉いさん方は頭の固い連中ばかりのようで、一向に話はすすまなかった。  今回だめなら、小さな一軒家を建てて犬でも飼おうか。なんて、たまたま寄ったホームセンターのペットコーナーで笑い合っていたのは、何日前のことだっただろうか。冗談だったのに、現実のものになりそうだ。

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