「や、やだ、もうしたくない、夏休み初っ端から風邪引いてテンション落ちたくないっ」 嫌がる紅唯千の言うことを全く聞こうとしない辰巳は。 唾液で潤う唇にキスして粘膜感染経路を増やすまでに至った。 「んぶーーーーっ……なに、してっ……んぷぷっ……たっ、辰巳さんおれにうつす気だぁっ、おれにうつして自分だけ治る気なんだぁっ、ひでぇっ、っ、んむっ、んっ、ぅっ、っ」 キッチンカウンターに乗っけた紅唯千の腰を抱き寄せ、下半身の密着が増したところで、辰巳は懲りずに動き出した。 すでに白濁を叩きつけられてぬるついた内壁にデカチンを擦りつける。 粘膜と粘膜の窄まりに亀頭を捻じ込ませ、グリグリ小突き上げる。 微熱滴る口内の隅から隅まで舌先で攻め尽くす。 「んっ、ぅっ、んっ、んっ、んぶっ……っは……何か言えぇっ……風邪でプッツンしてんじゃねっ……こんな、激しく動いてっ……風邪、悪化したらっ……どーすんだよぉ……っ」 猛攻組長彼氏に感じながらも紅唯千は怒っていた。 「美沙都さんも、亜難さんも帰ってくるかも、だし……っ……もぉ……！」 「お前が俺の一番のクスリだ、紅唯千」 「っ……そ、そ、そんなん言うなぁ～……し、し、締めちゃぅ……締まっちゃぅ……！」 「俺にもっとキメさせろ」 「ひぃぃんっ……たちゅみひゃぁん……っ」 とうとう我慢できなくなって紅唯千も辰巳を抱きしめた。 成熟した雄色気に富む息遣い、指の先まで限界熱々な組長彼氏に同調して、身も心も蕩かせて。 「高校卒業したらっ……お嫁に行くぅ……っ」 「ッ……てめぇ昭和の生娘か、コイ」 「たちゅみさんの、お嫁さん、なる……っ毎日カレーつくる……っ病気になったら、おれぇ、ずっと看病する……っ」 クッキングには広々とした余裕あるスペースだが、横になるには窮屈なキッチンカウンターに紅唯千は押し倒された。 辰巳は有り余る愛情をブチ込むように嫁男子に我が身を捧げた。 いとおしい唇に身も心も尽くした。 辰巳さんの一生のおくすりになってあげたい、俺……。 病人の辰巳としこたましっぽりしけ込んで風邪がうつるかと思いきや。 「たこやきサービスしてもらった！！　やきそばも肉多めだって！！　ほらほら、このポテトも箱から溢れそうじゃ！？」　 さすが現役男子高校生・紅唯千、頭痛・発熱・クシャミ・咳といった風邪の症状一切なし、だった。 後日連れてきてもらった海水浴場でも夏バテなどどこ吹く風ではしゃぎ回っていた。 今日はバッチリ女装している。 白黒チェックの肩出し腹出しオフショルトップスに黒ショートパンツ、その上に黒スカート、花のモチーフがアクセントになっているビーチサンダル。 ガーリーキュートな普段着スタイル風水着を恐ろしく着こなしていた。 リボンのついた麦わら帽子をかぶって、両手いっぱいに屋台の食べ物を抱えた紅唯千は、ビーチパラソルの下で待っていた辰巳の元へ。 「さっき亜難さんと美沙都さん見かけたんだけど、美沙都さんネクタイしてスーツ着てたよ！　なんで海でネクタイしてスーツ！？」 「あいつは体温調節と価値観が狂ってんだ」 煌めく波飛沫。 夏に浮かれる人々で大賑わいの広い砂浜。 サングラスをかけ、膝丈の海パンに柄シャツを羽織った辰巳は心底楽しむ彼らを遠目に欠伸した。 「欠伸すんな！　俺が楽しんでんのに！」 「厳しいのな、コイ」 「つーか辰巳さんも暑そ、シャツ脱げば？」 フランクフルトをもぐもぐしながら平然と刺青ご披露を促してきた紅唯千に、しなやかな肉食獣さながらにゴザ上で悠々と寝そべっていた辰巳は、目を細めた。 「せっかくの海だし。そのコにも日光浴させてあげなよ」 背中に負う昇龍を「そのコ」と呼んだ紅唯千に辰巳は小さく笑う。 「飛び出して噛みついても知らねぇぞ」 次の瞬間、ばさりっ、唐突にうっすら暗く閉ざされた紅唯千の視界。 自分の頭に向かって投げ捨てられた柄シャツを掻き抱いて、フランクフルトを頬張った女装男子は、ウォータープルーフのアイメークが施された目を見張らせた。 ビーチパラソル下の日陰から真夏の直射日光が降り注ぐ砂の上へ躍り出た漆黒の龍。 「暑いな」 潮風を浴びて深呼吸した辰巳は背中越しに紅唯千に笑いかけた。 「っ……もごご、だめ、やっぱだめ、シャツ着て、辰巳さん！」 「何でだ」 「みんな見てるっっ」 「そうだな」 「みんな惚れちゃうっ、俺の辰巳さんなのにっ、早く早くっ、もぉ着てよぉっ、もごもごっ」 フランクフルトを頬張ったまま慌てて立ち上がってシャツを着せようとする紅唯千、まるで背中の龍にじゃれついているようだ。 「まだろくに日光浴できてねぇだろ」 「もごーーーーっ」 「とっとと食えよ、コイ」 皆の注目を浴びながらも平然と堂々といちゃつく組長彼氏と女装男子。 「俺に嫁入りするからにはコイツのツガイも用意してもらわねぇとな」 「俺、彫らないよ！？　刺青むり！！　怖ぇもん！！」 「片方独りモンなんて可哀想だと思わねぇか」 「じゃあ俺がどっちの相手もする！」 「くそやらしいガキだな」 波打ち際で辰巳の背中にぎゅっと抱きついた紅唯千は眼光鋭い漆黒の龍にちゅっとキスするのだった。 end