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第48話
「ねぇ、お願い。聞いて?」
「やだ、やだよっ…別れたくないし、聞きたくないっ」
椎河さんは俺に縋り付く。
「ねぇ…「いや…!」
これ以上…
「椎河さんのこと、嫌いになりたくない。だから…」
椎河さんの肩を掴んで離れさせた。
その顔は涙でぐちゃぐちゃで、化粧も落ちていた。
それでも、綺麗だと思った。
「っ…」
「椎河さん、聞いて?」
「……っ」
涙は留まることなく椎河さんの頬を濡らす。
「二ヶ月くらいだったけど、一緒に居るの楽しかったよ。本当に」
椎河さんは何も言わない。
「椎河さんのこと、知れば知るほど俺には勿体ないって思った。もっと、椎河さんのことを大切にしてくれる人が居ると思う。俺は椎河さんのこと、大切に出来ないし、幸せにも出来ない」
「そんなことっ…」
スッと、椎河さんの唇に人差し指を当てた。
「だからね、椎河さん、俺と別れて欲しい。俺と別れて、幸せになって欲しい」
ツゥーっと涙が椎河さんの頬を伝って、地面に落ちた。
「……分かった。」
椎河さんはようやく頷いてくれた。
「でも、最後にお願いがあるの…」
「なに?」
キスしてほしい、とかかな…
そんなことを考えた。
でも、言われたお願いに、俺は本当に椎河さんは俺には勿体ないと思った。
「私の名前、呼んでほしい」
「…妃捺」
名前を呼ぶと、椎河さんはいつものように笑った。
「別れよう、瑛翔」
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