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第53話
ようやく落ち着いて、俺は顔を上げた。
「ごめん、佑嗣…部活…」
「今日休みだったから大丈夫」
きっと嘘だ。
俺のために…
「帰ろっか」
「うん」
俺たちは屋上を出て帰宅する。
佑嗣は気遣ってか、グラウンドの方を通らない裏門から出ようと言ってくれた。
ほとんど会話することなく、家に着いた。
「明日も、無理して来ることないから」
「うん…」
「あと、ちゃんと目冷やせよ。腫れてる」
「ん…」
スッと佑嗣は俺の目尻に指先で触れた。
少しピリッとした。
「あの、今日のこと祥馬には…」
「何も言わないから」
「ありがと…っ。俺、佑嗣が幼馴染みで良かった…」
無理やり笑った。
佑嗣はなんだか痛そうな表情で俺を見た。
「俺のこと、かわいそうって思ってる?」
佑嗣は首を振った。
「心配してるんだよ。瑛翔は、無理するから………」
口を開いたけど、その先を佑嗣が紡ぐことはなかった。
でも、予想できる。
「本当は弱いのに…でしょ」
今度は無理やりじゃなく、少しだけ笑った。
そしたら佑嗣も少しだけ笑って、
「分かってるじゃん。お見通し?」
「ふっ…まぁね…」
二人で小さく笑い合って、佑嗣は俺が家の中に入る所まで見届けてから、帰って行った。
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