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第90話

「祥馬、…?最後って、言ったよね」 「知らねぇ」 「やだ、っねぇ!」 抵抗も虚しく、馬乗りになっている祥馬から衣装の前をはだけさせられる。 「っ、祥馬っ…気持ち悪いんじゃないのっ…?」 「なぁ、男同士ってどうやんの?」 祥馬は、本気で俺とする気なの? さっき桐崎さんとした、同じ場所で? 絶句していると祥馬は小さく笑った。 「あぁ、お前も男とはヤったことねぇよな。待ってな、今調べるから…」 祥馬は俺の右手を床に固定するように押さえつけたまま、ポケットからスマホを取り出し、操作し始めた。 好意ですら気持ち悪いと言った祥馬が、男相手に欲情するとは到底思えない。 それなら、揶揄って、"愉しむ"以外、なにがある? 「やっ…冗談でしょ…?」 「ローションなんて持ってねぇな…」 「ねぇ…」 「初めてならバックがいい、か…」 祥馬は俺の言葉なんて耳に入っていないようで、スマホの画面を覗きながら何やら呟いている。 注意がスマホに向いてる今なら… 身体を起こせるところまで起こし、左手で力一杯祥馬の右肩を押し、少し下がったところで膝で思い切り祥馬を押し退けた。 「っ…!」 祥馬が怯んだ隙に俺は立ち上がり、祥馬が上がって来た階段とは反対の階段を下りた。 「待てよっ、瑛翔!」 奥の席に居たのが間違いだった。 真ん中の階段から下りて来た祥馬に、扉へ辿り着く前に追いつかれてしまい、道を塞がれた。 「っもうやだ…。何で…意味分かんないっ。俺で遊んで楽しい?俺のこと傷つけて楽しい?」 思っていたことがぼろぼろと涙と一緒にこぼれていく。 「祥馬のこと、好きにならなければ良かった…」

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