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第35話
「ナカ出ししちまったら、事後処理が面倒だろ?」
「いい……」
「あ?」
「ナカに、ください……」
正気か──?と幸太郎は案じるが、もうナオを説得している時間はなさそうだ。
一気に律動を速め、内側からせり上がってくる精をナオのナカにぶちまける。
「んぅ──っ!」
吐精すると、ナオが背中を優しくなぞってくれる。
「スゴ……先輩の、ドクドクしてる……」
「お前なぁ、ナカ出しは身体によくねーんだぞ。次からはゴム買っとくからな」
「いらない……そんなの、いらない……」
一体ナオはどうしてしまったのだろうと、幸太郎が彼の顔を覗き見ると、ナオは透明な涙を零して頬に幾筋もの涙の痕を作っていた。
「怖かった……」
「っ!?」
「怖くて……ヤられるって覚悟してて……でも、あんなヤツらに先輩の記憶を上書きされんのかって考えたら……日菜子さんがいなかったら、俺、確実にヤられてた……」
繋がって、イかされて、ようやくナオが語った今日の事件。
怖かっただろうと察していても、当事者であるナオが何も言わないので、幸太郎も敢えて訊かなかった。
「先輩、日菜子さんって、美人な上に喧嘩も強いんですね……」
「凶暴なだけだろ」
「俺には、凶暴性が足りなかったのかな……何もできなくて……惨めで……」
幸太郎は己を責めるナオの額に、口付けを落とした。
あの場では日菜子を罵倒してしまったが、本来一番悪いのはナオを暴行しようとした男達だ。
「もうあんな目には遭わせねーよ、ナオ」
「先輩……?」
「だから、泣くな。辛うじて無事で、俺とセックスもできた。それでいいじゃねーか」
ナオは新しい涙を流しながら、幸太郎にしがみついた。
あの時の恐怖が今頃になって心の中に蘇るのは、どうしてだろう。
誰にも「怖かった」などと言うつもりはなかったのに、結局一番迷惑をかけたくない幸太郎に言ってしまった。
「なぁ、ナオ?」
「は、はい……」
「お前、まだ『二番目でいい』なんて思ってねーだろうな?」
ナオはギクリとした。
ついさっきまでそう思っていていたからだ。
「ちょっとだけ、思ってました」
「過去形でいいんだな?今はもうそう思ってねーんだな?」
「先輩の……一番になりたいです」
上等だと幸太郎が口角を上げれば、ナオも少しだけ頬の筋肉を緩めた。
「一番になるからには、覚悟が必要だ。俺は中途半端な愛し方ってのができそうにねーからな」
「手加減なしってことですか?」
「そうだ。付いて来られるか?」
幸太郎が問えば、ナオは極上の笑みでもって頷いた。
(終わり)
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