2 / 203

episode.1-1 「date」

フローリングを裸足で踏む度、2月の冷気が全身を突き抜けた。 思わず身を竦める。 人気の無い、午前4時のキッチンに向かう。 比較的寒さには耐性があった。 そう思い込む事にしていた。 人は良く生まれの月に耐性があると言う。 コンロで湯を沸かし、萱島は火に指先を翳した。 (…誰か帰って来た) 眉を潜めた。 玄関から足音がした。 副社長ならば良かったが。 残念ながら期待を裏切って現れた男より、萱島は決まり悪そうに顔を逸らした。 「…お前、何でこんな時間に起きてんだ」 至極不思議そうに。 出張帰りの神崎は、キッチンに立つ姿へ首を傾ける。 「別に」 「寝られないのか」 今日休みだろ。 ネクタイを引き抜き、冷蔵庫を開ける男に図星を突かれた。 そう、一睡も出来なかった。 幾ら寝返りを打てども、まるで他人のベッドに居る心地だった。 「…関係無いでしょ」 聡い神崎の視線から逃げようとしたが、無謀だったらしい。 「ああ…何、和泉とデート?」 しゅんしゅんと蒸気が立ち昇る。 勢い良く火を止め、萱島は僅かに紅潮した頬で食って掛かった。 「デートじゃない」 「あっそう。しかしアレだな…本部の上2人が仮にデキたら、会社として健全とは言い難いな。まあ、お前らが公私を混同する馬鹿じゃないとは思ってるけど」 「そんな事は心配しなくて結構だ」 珈琲缶に手を伸ばす。 未開封の蓋が思いの外固い。 奮闘していた矢先、背後から奪った神崎が簡単に開けてしまった。 ムカつく。 萱島は不要に苛立ち、もうすっかり口を閉ざした。

ともだちにシェアしよう!