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episode.1-1 「date」
フローリングを裸足で踏む度、2月の冷気が全身を突き抜けた。
思わず身を竦める。
人気の無い、午前4時のキッチンに向かう。
比較的寒さには耐性があった。
そう思い込む事にしていた。
人は良く生まれの月に耐性があると言う。
コンロで湯を沸かし、萱島は火に指先を翳した。
(…誰か帰って来た)
眉を潜めた。
玄関から足音がした。
副社長ならば良かったが。
残念ながら期待を裏切って現れた男より、萱島は決まり悪そうに顔を逸らした。
「…お前、何でこんな時間に起きてんだ」
至極不思議そうに。
出張帰りの神崎は、キッチンに立つ姿へ首を傾ける。
「別に」
「寝られないのか」
今日休みだろ。
ネクタイを引き抜き、冷蔵庫を開ける男に図星を突かれた。
そう、一睡も出来なかった。
幾ら寝返りを打てども、まるで他人のベッドに居る心地だった。
「…関係無いでしょ」
聡い神崎の視線から逃げようとしたが、無謀だったらしい。
「ああ…何、和泉とデート?」
しゅんしゅんと蒸気が立ち昇る。
勢い良く火を止め、萱島は僅かに紅潮した頬で食って掛かった。
「デートじゃない」
「あっそう。しかしアレだな…本部の上2人が仮にデキたら、会社として健全とは言い難いな。まあ、お前らが公私を混同する馬鹿じゃないとは思ってるけど」
「そんな事は心配しなくて結構だ」
珈琲缶に手を伸ばす。
未開封の蓋が思いの外固い。
奮闘していた矢先、背後から奪った神崎が簡単に開けてしまった。
ムカつく。
萱島は不要に苛立ち、もうすっかり口を閉ざした。
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