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episode.1-2

「何でも良いが、ちゃんと帰りは送って貰えよ」 「……」 「沙ー南ちゃん、返事」 返さず無視した。 壁際に凭れ、病気になりそうな質量の砂糖を混ぜた。 一体今から昼まで何をして過ごそう。 笑える位、何も手に付かないのだ。 スプーンを咥え、牛乳を投入した。 白い波が浮かぶ。 こんなに惑うのも気にしているのも自分だけだ。下らない。 何も助けてはくれない、閑静なキッチンに携帯が鳴る。 マグカップの中身を掻き混ぜながら、萱島は応答した。 こんな時間に急用らしかった。 「…お疲れ、どうしたの」 相談元は部下からだ。 早朝の電話に対する詫びと事を語る、彼の話を耳に手が止まる。 「何だそれ…そんなんウチに落ち度無いだろ」 指先がシンクを叩く。 「良いよ、じゃあ電番教えて。俺から折り返し掛けるから」 こちとら都合良く時間が潰れる。 通話を終え、萱島は多少微温くなったカフェオレを啜った。 「牧?」 「うん、なんか客がゴネてるらしく」 数コンマして、直ぐにメールが飛んで来る。 文面を開き、記載された番号に接続する。 シンクに寄っ掛かる萱島を目に、雇用主は何か言いたそうだったが。 「…もしもし、お忙しい所恐れ入ります。主任の萱島と申しますが」 口調だけは丁寧に一息に告げた。 神崎はもう、今で嫌な予感がしていた。 「東海林さんですか?すいませんねお話伺ったんですが、何を仰ってるのかイマイチ…訴訟?おたくの水増しがバレて、ウチが訴訟起こされるんですか」 果たして眠れないストレスが此処で着火したのか。 後になって思えば、この時に携帯を奪っておけば良かった。後悔先に立たず。 爽やかな朝のワンシーン、突然萱島は一転して声を荒げていた。

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