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episode.1-3

「…寝惚けた事言うのも大概にしろよテメエ…!万引き通報したら、通報した人間が裁かれんのか!しかもウチの部下に看板持ちチラつかせたらしいな。代紋出されたらこっちも出方変えるぞ、舐めた真似しやがって」 このマンションが防音で良かった。 とは言え、聞こえたところで皆脛に傷を持つ人間だったが。 「あ?すいませんだと…こんだけ手間掛けさせといて、すいませんで済ます気か。ガキの喧嘩じゃねえんだぞ、ケジメ付けるなら金作って来いって言ってんだろが!」 お前、それはもう、完全にふんだくりや。 顔を顰める社長を他所に、萱島はスプーンをかき回しながらヒートアップし始めた。 菱田が仕込んだやら知らないが、なるほど。一丁前に啖呵は覚えているらしい。 「無い!?ドタマ空かオッサン!脚付いてんだろ、口も利けんだろ!だったら今直ぐ闇金なり、親戚に頭下げるなりして作って来んかい!この…」 「どうもお電話替わりましたー、社長の神崎です」 耐えかねて漸く神崎は電話を取り上げた。 このままだと相手方が闇金に落とされ、破産して漁船コースに成り兼ねなかった。 「部下が失礼しました、いえ少し気が立ってて…とんでもない。謝礼なんて結構ですから、今後一切うちに関わらないで頂ければ」 萱島は未だ目つきも険しく、行き場なく彷徨わせていた手をポケットに隠した。 やらかした。 自責の念から押し黙るも、自分は交渉の方法などこれしか知らない。 例に倣って通話を一方的に切った神崎が嘆息する。 苛ついていたとは言え、サービス業にあるまじき品の無さである。 「怯えてたぞ、可哀想に」 「…申し訳ありません」 「6年も居たんじゃそりゃ染み付くか。先ずその、兎に角金銭をふんだくる方向に運ぶのは止めた方が良いな」 携帯を返されて尚、情けなさから黙っている。 ああ、未曾有の混乱から余りに余裕が無さ過ぎる。 こんな場面、彼に見られたら益々呆れられると言うのに。 「義世に教わったら良い。上手いから」 「そうします…」 「別にお前の一面なんだから、否定する気は無いよ」 じゃあ和泉に宜しく。 それだけ言い残し、雇用主は廊下の奥へと姿を消してしまう。 また逡巡の渦中へ取り残された、萱島は冷め切った飲み物へ、これまた微温いお湯を継ぎ足すのだった。

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