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第1話
──ここがダニエル・ロジャースのパーティーライブ会場か…‥‥
ダニエル・ロジャース。
今、僕が最もリスペクトしているシンガーの一人。シンガーといってもアマチュアだけど。
彼はサイコーにクールでロックだ。
僕がロックに目覚めたのも彼のおかげ。
今日は彼のパーティーライブ。僕はどうしてもどうしてもここに行きたくて、電車に乗ってここまで遠出してきた。
「リハーサルの音聞こえてくる…最高にロックだ…!」
僕の今日のファッションは黒いダメージスキニーに、黒いパーカー、チョーカーにじゃらじゃらなピアスという最高にロックな格好である。ダニエル・ロジャースもきっと喜んでくれるはずだ。
僕が入り口の方へ歩いていくとゴツい男の人にいきなり道を塞がれた。
「おいボウズ。なに勝手に入ろうとしてんだよ。この先を行くなら金を払いな」
「お金?…いくらですか」
「50ドル」
ご、50ドル…?!
高すぎる…
学生の僕にはとてもじゃないけど払えない。
「おいまさかお前、払えないんじゃないんだろうなぁ?!」
「あ、いや、まぁ…」
せっかくダニエルに会えるチャンスだってのに、ここで逃すのか…。
あきらめたくない…けど金はない。
「くっ、ここまでかよ…!!!」
僕は膝を地面につき、拳を下へ突きつけた。
すると。
「あ、金ならこれでいいですかね?俺の分と、こいつの分で100ドル」
「えっ?」
現れたのは、帽子をふかくかぶった背の高い男だった。
「お、おう。じゃあ、通れ」
背の高い男が金を出すとゴツい男はそれを戸惑いながら受け取り、あっさりと僕達を通した。
「どうもー」
そう言って背の高い男は僕の腕を引っ張り、ライブ会場の中へ入っていく。
「あ、ありがとうございます…」
「いや、礼には及ばない。ああいう悪質なヤツら、よくいるんだ。下手に逆らわないほうがいい。それに、同じダニエルのファンだったら分かる。生ライブは超行きたいよな」
彼は深く被った帽子を外しながら、とびっきりの笑顔でそういった。
僕は彼の頬のえくぼに見覚えがある。
あれは10年前…
まさか。
「ま、まさか…エド…?エドなのか!」
「え?…‥‥あぁうそだろ!!オリバーじゃないか!」
彼はエドワード。僕にダニエル・ロジャースの世界を教えてくれた2つ上の親友だ。
昔はよく二人で遊んでいたのだが、10年前にエドが突然引っ越して僕達は離ればなれ、音信不通になってしまった。
ここで親友と10年ぶりに再開できるなんて…‥!
今日は最高にロックだ!!!
「やっぱりエドも、ダニエルのパーティーライブに行こうと思ったんだね」
「あぁ、もちろん!SNSで見つけてな。彼のロックは最高にクールだから、絶対行きたいと思ったんだ」
エドの格好もまた、ロックに決まっていた。
…ただ。
1つ気になったことがある。
「それにしてもエド、なんでそんなお金もってるの?そんなにお金持ちだったっけ?」
「いや、そういうわけじゃないんだが…まぁ、なんていうか。うん」
「…そっか」
きっとエドのことだから頑張ってバイトをしまくったんだろうな。
僕達は人々を掻き分けてステージの前に立つ。もちろん最前列。
今日は席なんてない。皆、踊りながら彼の曲を聞くんだ。
あぁ、最高にロックでクール!!!
「あ、ほら見ろよ!ダニエルが出てきたぜ!!」
急にステージが明るくなって、ダニエルが曲のイントロと一緒に出てきた。
「ヒュー!最高だぜ!ダニエル!!」
ダニエルがステージの上で踊ると、エドはよっぽど興奮した様子で叫んだ。
「エド、キミ、叫びすぎじゃない!」
「オリバーも叫べよ、好きなんだろ!」
全身に染み渡るビート。うるさすぎるくらいな歓声。躍り狂う客に混じって、僕は…。
目を閉じた。
体に染み込んでくる感覚。
もう戻りたくない。
もう戻れない。
赤い液体がワインかどうかなんて、
そんなものは誰にもわからない。
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