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第2話

「わぁ、たのしかったぁ」 「おいちょっと、オリバー。お前酔いすぎ」 「えへへぇ」 パーティーライブが終わった後、俺はオリバーを支えながら駅まで歩いていた。 ライブ会場はワインが売っていて、オリバーはそれをジュースと勘違いして飲んだらしい。 ったく…‥‥未成年なのに…‥‥ 俺がガキの頃から好きなアーティスト、ダニエル・ロジャース。俺が8歳の時、親父はある日、『道端でクールな兄ちゃんがイイ声で歌ってたから、CDを買うしかなかったんだよ』と笑いながら言って、俺にそれをくれた。 あのCDは今でもまだとってある。俺の宝物だ。それを聞いた時から、俺はダニエルの追っかけなのだから。 ダニエルの良さを皆に分かって欲しかったが、あいにくダチは隣近所の3つ下のボウヤしかいなかった。それがオリバー。 オリバーはよく俺の家に遊びに来ていたから、ダニエルのCDを聞かせてやった。そしたらあいつは目を輝かせた。『こんなにクールなミュージックは聞いたことないよ!』だとさ。あの顔は一生忘れないと思う。 それから俺達は遊んでいる間、ほとんどロックについて語っていた。ビートルズはもちろん、ニルヴァーナなど、たくさんのロックバンドの曲を聞いた。 だが、最高にクールな日常は突如として消え去る。俺が10歳の時、親父が死んだ。ダニエルを好きになるきっかけをくれた、あの優しい親父。幼い頃だったからよく覚えてはいないが、事故死だったらしい。 お袋は、「悲しみを思い出さないようにしなきゃね」と赤く目を腫らしながら言って、遠い州への引っ越しを準備し始めた。 俺は嫌だった。まだ子供だからパソコンやスマホは持っていない。だからオリバーと連絡のしようもない。もうオリバーと一生会えないかもしれないなんて、そんなの最悪だった。だけど、引っ越すしかないって子供ながらに分かっていたんだと思う。 引っ越して数年で、ガラリと日常は変わった。 お袋が恋人を家へ連れてきた。そいつは気難しくて、俺と気が合わないヤツだった。 なにしろお袋が親父のことを忘れてしまったんだと思うと、心が張り裂けそうでもうなにをしていいか分からなくなった。 その結果、俺は酒を飲んだりタバコを吸ったりした。ムカついたヤツをボコボコにして、警察のお世話になることもしばしばあった。高校も退学になってしまった。 もうこんな日常は嫌だった。 オリバーとの連絡も、相変わらず途絶えていた。 そんな中での再会。 嬉しくない訳がない。 しかも大好きなダニエルのライブで。 「きょおはさぁ、えどともあえたしぃ、だにえるのなまうたもきけたしぃ、ほんとさいこーにろっくぅー」 「こりゃだめだな」 ベロベロに酔って呂律の回らないオリバーはフラフラしていて一人でも歩けない状態だ。 「えどぉ…ぼく、ねむいなぁ…」 「えぇ、めんどうだな。いいよ、おぶってやるけど、家までな」 「えどぉー!!えへへへ…」 早速、背中でスースーという寝息が聞こえた。 「全く、困ったな…」 俺はそう呟きながら自分の車へと歩く。 家っつっても、お前の家じゃないよ。 俺の家。

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