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第5話
エドは僕をからかう。
なぜだろう、どうしてからかうのだろうか。
エドだって本気で僕の事を『かわいい』だなんて思っていないだろうし、それは僕も十分に分かっているはずなのに。
それなのにどうして僕は意識してしまうんだろう。
「エド!からかわないで!」
頬から火照りが伝わってくる。完全に無意識だ。赤い顔を見られたくなくて、僕は机に伏せた。
「悪かったって、オリバー。お願いだから顔をあげてくれよ」
エドはそう言ったけど、笑いながら言ってるのは顔を見ながらでなくても分かる。
ついには僕の頭をさらさらと撫で始めた。
「エド…」
僕が机から顔をあげようとしたら、僕の頭を撫でていたエドの手が僕を机へ押さえ込んだ。
机がガタンと音をたてる。
「エド…!ちょっと、なに!」
「しっ!…お願いだから静かにしててくれ」
「えっ…?」
僕が頭を必死にあげようとしても、エドは僕よりも数倍、強い力で押さえ込んでくる。
僕に願いを要求したエドの口調は、なぜだか焦っているようにも思えた。
エド、どうしたんだ…?
とりあえず僕はエドの言うまま、なにもうごかず、静かにすることにした。
「よぉ、エドじゃねぇの」
そして突然、見知らぬ声がエドに向けられる。
「あぁ…ザッカリー。久しぶり、だな」
ザッカリー。野太くてずっしりとしたダミ声。姿を見なくても、この人は太っているんだなって分かった。
「今までどこでどうしてた?ったく。せっかく次の仕事が入ったっていうのによぉ」
「あぁ…なぁ、その話なら外でしないか?」
仕事?何の仕事だ?
考えていると、エドのほうからイスを引く音が聞こえた。
2つの足音が遠ざかっている。
僕は顔をあげた。
「あーあ。エドも厄介なヤツに見つかったわね。しかもこんな日に限って」
エドが座っていた席にいたのは、先ほどエドと親しげに話していたカルラという若い女の人だった。
「厄介って…あの、さっきのザッカリーって人とエドは、どんな関係なんですか?」
僕が質問するとカルラは目を見開き驚いた。
「まさか、あなた知らないの?!…でも、当然知らないわよね。まさかエドが言うわけもないし…」
「あの、教えて?」
カルラは少し考えてから、僕に言った。
「ダメね。答えられない」
「なんで!」
僕が声を荒げるとカルラは大きなため息をして、言った。
「言えないから。特にあなたにはね」
「どういうこと?」
「あなたは見たところエドのお気に入りよ。どんな媚び売ったか知らないけどさ、エドのあんな顔は見たことないわ。だから言えない」
「え?媚びなんて売ってないよ、親友なんだ」
「…親友ですって?」
カルラはまた目を見開いて驚いた。
「エドに親友なんていたのね…初耳。てっきり、ベッドでゴローンニャゴニャゴって可愛い声を出してエドのお気に入りにまでやっとたどり着いた苦労人かと思ったわ」
「ゴローンニャゴニャゴ…?」
「あぁ、なんでもないわ。こっちの話よ」
ゴローンニャゴニャゴが気になるけど、今はエドとザッカリーの関係のほうが気になる。
黙って話を聞こう。
「えっと…やっぱりこれって言っていいのかしら…」
「いいから早く教えて下さい!」
「でも…」
「早く!」
なかなか教えようとしないカルラに、僕はイライラしながら急かした。
するとカルラはまた、ため息をついて言った。
「知っても後悔しないでよ…あたしのせいじゃないからね…」
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