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第4話

「エド、お腹減った」 「奇遇だな、俺もだよ」 オリバーがバスルームから出て、俺達はずっとリビングでテレビを見たり、ゲームをしたり。 まだ朝飯は食べていなかった。 「んー、じゃあ…『リッツで食事でもいかがかな、色男さん。ほら、ちょうど9時になる』。なんてな」 「ふふっ。『Good Old Fashioned Lover Boy』だね。僕、クイーンの曲好き」 俺がサビのメロディを歌えば、オリバーが口笛を吹く。そういえば、こいつは昔から口笛が上手かったな。 あ、と何か思い出したようにオリバーは笑いながら言った。 「まさかホントにリッツなの?」 「ははっ。バカ言え、俺達にはリッツよりファーストフードがお似合いだろ」 それから俺達は着替えて、車に乗り込む。 オリバーの服は俺のものを貸してやった。さすがにあのロックな服装じゃ、目立つからな。 助手席のドアを開けてオリバーをエスコートすると、オリバーは目を細めながら言った。 「助手席なんて、子供みたい」 「子供だからいいだろ。後ろは汚いんだよ」 車内ではラジオが流れている。パーソナリティーのおっさんがアカペラで下手くそな歌を披露していた。 こんなイケてないラジオを流すのはやめて、ダニエル・ロジャースのCDを流そう。 そう思ってダニエルの4枚目のシングル、『I will be there』を流すと、窓側に顔を向けて頬杖をついているオリバーが口を開いた。 「エド、車、持ってたんだね」 「ああ。昨日も酔ったお前を乗せたけどな。そこそこ良い車だろ」 「うん。…‥ねぇ、やっぱりお金持ち?」 「まさか。そういうわけじゃない」 そう、といってオリバーはまた黙ってしまった。多分考え事をしている。なんとなくだが、そう思った。 近くの州に比べても、ここはかなり田舎だ。 俺は今年の4月、実家を飛び出して独り暮らしを始めるためにここに引っ越してきたのだが、あまりの田舎臭さに最初は驚いた。 まるでひと昔前の映画みたいな作りだ。 整備されていない道路。 治安の悪そうなファーストフード店。 ガラの悪そうなヤツら。 周りの車はみんな錆び付いてボロい。だから、中古で買った俺の車がかなり目立つ。 おかげで俺はこの町でかなりの有名人になってしまったわけだ。…‥‥まぁ、良い意味ではないが。 「さて。どれ頼むか?」 時刻はもう10時になろうとしていたが、それでもこの店はすごく混んでいた。地元じゃ有名なファーストフード店だ。味も、他のに比べれば悪くない。だからなのだろうか。 俺達はやっと見つけた席に座り、メニューを見ていた。 「え、エド…本当にここで食べるの…?」 オリバーは眉を寄せ、声をひそめて俺に聞いた。 オリバーの住んでいる州─前に俺が住んでいた州─は、かなりの都会だ。道路もちゃんと整備されているし、ファーストフード店はちゃんと清潔。ガラの悪そうなヤツらはすぐ逮捕される。 だからオリバーは信じられないのだろう。こんな不清潔なファーストフード店があるのが。 「言っただろ?俺達はファーストフード店で十分だ」 「でも…」 「リッツに行く金なんてないし、そもそもこの町にリッツなんてない。ほら、早く選べよ。ここは他よりもかなりマシなほうなんだから」 「えぇ‥」 「ハエが一匹しか居ないのが奇跡だな」 「うっ…‥わかったよ…‥‥」 しぶしぶ折れてメニューを決めるオリバーを正面で見て俺は鼻でふっと笑い、また自分もメニューを決めた。 「…‥‥これとこれ、ドリンクはこれ2つ。よろしく、カルラ」 「オーケー、エド。それより…今日はかわいい子猫ちゃんも一緒なのね?」 この店の看板娘であるカルラを呼び、俺はメニューをオーダーした。 カルラは物心ついたときからこの店を手伝っているらしい。そして、顔もスタイルも悪くない。 だが、最近では周りの男からのアプローチがうざったらしいと漏らしていた。 俺もこの店の常連だ。同い年だという彼女とは通っているうちに仲良くなったが、なぜだか特に恋愛感情は芽生えない。 「あまり見ないでくれないか?こいつは俺のなんだよ」 そう言ってオリバーの手に軽くキスをすると、カルラは一瞬驚いたが、その次に笑いながら言った。 「ふふっ、そういうことね。ここは悪い輩が多いから、できるだけ早く出してあげるわ」 「そりゃありがたい」 彼女がここから離れる。 そして俺はオリバーの顔をチラッと見た。 …‥‥おぉ、真っ赤だ。 「なに真っ赤になってんだ」 「…‥‥ひ、人前でキスなんて!」 「いいじゃないか。ただの手だ」 「手でも…!しかも『俺の』って…!」 オリバーは耳まで赤くなっている。 「…あんまりここでそういう顔するなよ」 「え…?」 「皆にこのかわいい顔を見せたくない」 「エド!からかわないで!」 ついにオリバーは机に伏せてしまった。

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