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文化祭に招かれたアイドルとの甘いひととき①

※ ※ ※ 俺らが通う《猪井の丘@region 大学》に着いた途端、構内から大歓声と学生達が騒ぎまくる声が聞こえてきた。いつもはシーンと静まりかえっていて生徒達は勉強に疲れきって、まるでゾンビの如くそこらを歩いているというのにどうして、だ__と辺りをキョロキョロと見渡してみる。 「おい、おい……優二__それに、夢々も……何つー顔をしてんだよ?今日は楽しい楽しい文化祭だろ?まあ、この年になって面倒くさいのも分かるけど……普段の授業よりはマシっつーもんだ。しかも、今回の文化祭は____」 ふと、親友であり尚且つ同じ講義を受けている学生《只野 人志》が何故かドヤリ気味で俺と夢々へと言ってきた。そして、ちらり__とある場所に向かって視線を向ける。 多くの出店が連なる中で、その場所にはひときわ生徒達が集まっていた。しかも、生徒達だけでなく数人の教授や__大学には相応しくないような警備服を纏った屈強そうな男達__それにカメラやビデオを構えた者達もいるのだ。 「みんな~……ミルの事を応援してくれてありがとう!!ミルはみんなのために、愛を込めて歌いまーす!!」 拡声器を通して甲高くも人目を引くような魅力的な女性の声が響き渡る。そして、それに答えるようにして周りに集う生徒達__いや、教授を含む周囲の見物人達の歓声が辺り一帯に響き渡る。 「テレビにも出てるアイドル__《Milky wave》のミルちゃんがゲストとして招かれたんだもんな……あんな事があっても、健気にアイドル活動を続けるミルちゃんが来るんだから__そりゃあ、騒ぎまくるよな」 あんな事____。 (ああ……そういえば、あのアイドルはコメンテーターとして前にテレビに出てた……確か__ユニットを組んでたミナとかいうメンバーが唐突に命を落としたけど__あの子はその後も一人でアイドル活動していて人気なんだったっけか……ん~、俺はあんまり興味ないな) 肩につくくらいまで伸ばした白い髪の毛に、苺ケーキを模したようなフワフワした可愛らしい衣装__そして、周りにいる誰をも虜にしてしまいそうなミルというアイドルに僅かの間、目を奪われてしまっていた俺だったが__左隣にいる夢々の方からジーッと睨み付けられているような視線を感じて慌ててそちらへと振り向いた。ちなみに、振り向く寸前__アイドルのミルと目が合いニコッと微笑みかけられたような気がしたけれど、俺としてはそれどころではない。 明らかに、夢々の機嫌が悪く__しかも、振り向いた俺と目線すら合わせようとしないせいか項垂れてしまっている。 その時____、 「わりぃ……ちょっと、あっちに行ってくるわ。お前らは興味ないんだろ__適当に回ってこいよ……それじゃあ、また後でな!!」 只野が申し訳なさそうに俺と夢々に謝ると、そのままアイドルのミルを目の当たりにして正気を失ったかのように騒ぎまくる集団の方へと駆けて行ってしまう。 「ゆうちゃん……ちょっと、そこのトイレに行ってくる__あとでタコ焼きを一緒に食べたいから……先に校舎の中に入って待ってて__いい、分かった!?」 ふと、何故か少し厳しい口調で夢々が俺に言い放つと___そのまま、校舎外にある屋外トイレへ向かって走って行ってしまった。 (仕方ない……夢々の言う通り__校舎内に出してるタコ焼きの店を出してる講義室まで行ってやるか……幼なじみのお願いくらい叶えてやろう) くるり、と振り向いて校舎へと歩いていく。 背後からは《Milky Way》のアイドル___ミルの甘い歌声が聞こえてきた。周囲の歓声は先程よりも更に大きくなっていて狂気じみているともいえなくもなかったが、俺は特に気にもせず校舎内へと入って行くのだ。 ※ ※ ※ (遅い…………いくら何でも遅くないか__夢々の奴……どんだけトイレに時間かけてるんだよ……) タコ焼きの店を出しているという講義室前の廊下で、俺は腕時計の秒針を見つめつつ内心イライラしながら幼なじみが来るのを待っていた。 しかし、夢々は未だに来ない__。 トイレに行くといって暫く時間が経っているにも関わらずだ。いくらなんでも、おかしい__校舎外のトイレまで行ってみるか、と歩き出そうとした時___、 『ガタンッ…………』 と、講義室の中から音が聞こえてきた___。 その時の気持ちは形容しがたく、半分は興味本位__そして、もう半分は疑心という感情を抱きつつ俺は謎の音の正体を確かめるべく講義室の扉へと手をかけてそれを開けようとした。 しかし、どうしても開ける事が出来ない__。 すると、傍らにいたポメラニアンに擬態化しているネムリがちょこんと生やした両耳を昆虫の触角のように細長く変化させ__扉の隙間からそれを内側に忍び込ませる。 ガチャ……ッ___ 詳しい仕組みは分からないけれど、とにかく扉の鍵が開いた音がして俺は勢いよく中に入った。 そこには、到底理解しがたい光景が広がっていた。 校舎からかなり離れた屋外トイレにいる筈の夢々が、講義室の真ん中でピクリとも動かずに横たわり、傍らには白く長い髪の毛の束を持って呆然と空を眺めて座っている只野の姿___。 カーテンが閉じられていたため、目が慣れるまでに多少時間がかかったものの、徐々に光景があらわとなっていき、数十分前まではアイドルの女性に夢中だった筈の只野が呆然としつつ、手に持った白い髪の毛の束で夢々の首を絞めていた事――そして、彼らの周りに数人の生徒達(おそらくタコ焼き屋を開いていた生徒達だろう)の血まみれとなった死体が床に転がっていたのだった。

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