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1-1 マコトとの出会い

 森で拾った青年は、案外いい拾いものだったかもしれない。  最初はどうしてこんな所に武器も防具も着けていない無防備な者がいるのかと驚き、同時に苛立ちを感じた。  タネヤドシは強力な媚薬を体内で生成する。その薬欲しさに闇の商人が人を雇い、取引禁止にも関わらず採取をしようとするくらいだ。  だが一番考え物なのは、この植物に一度嬲られた者だ。強烈すぎる快楽と人では味わえない刺激が忘れられず、わざわざ促進剤を持って犯されに来る者がいる。  命がかかっていることも忘れ、なんとも愚かな行為だ。  促進剤は強力なものだ。タネヤドシの種は大きく、赤子の頭くらいある。それを無理矢理体内に深く埋め込まれるのだから、簡単には出てこない。  促進剤は食肉植物の種子を埋め込まれた者や、モンスターに卵を植え付けられた者の体から強制的に堕胎させるためのものだ。投与されたらその日は地獄のようになる。  昔にそうした者を見たが、ゾッとした。腹が大きく歪に膨らみ、パンパンに張ってはじけてしまいそうだった。  そこに医者が促進剤を打つと、三十分としないうちに脂汗を浮かべ、身を縮込ませてモンスターの咆吼のような声を上げて叫んでいた。  手足をしっかりと縛り付けられていたが、その理由は分かった。そうじゃないと暴れてどうにもならないんだ。  時折腹の中が動くのが見られた。促進剤は強く収縮を促し、強制的に排泄させる。気持ち悪いのか、そいつは何度も嘔吐していた。  医者が埋め込まれた穴に腕を突っ込んで中をグリグリとかき回すと、ぐちゃっと水が溢れてもの凄い数のモンスターの卵が出てきたものだ。あの光景は今でもゾッとする。  今回の彼もそうなのかと思った。だがその割に抵抗しているし、助けを呼んでいる。気になって助けて、虚ろな彼を抱き上げて思わず体が熱くなった。  匂い立つ色香は強力だった。何よりも匂いがダメだ。一気に下肢が熱くなるような強力な匂いだ。頭がクラクラする。  おそらく媚薬に犯されてどうにもならないんだろう。それでもちゃんと会話ができたのだから、凄いと褒めてあげるべきか。  話す内に、彼が異界から渡ってきた者だと分かった。それならこの無防備さも理解できる。それにしても、気の毒な話ではあるが。  その異界人、マコトは案外律儀な青年っぽい。助けた事にしきりに礼を言っているし、受ける親切に妙に恐縮する。見た目は愛らしいが、案外芯がしっかりしていそうだ。  俺はこの世界の事を話した。そして、マコトの世界とかけ離れた環境なのだと知った。  まず、人間しかいないというのに驚いた。衝撃の強さはマコトの方が大きそうだが。それでも皆人型を取って生活しているのを聞くと、幾分安心したようだった。  何より驚くべきは同性同士の結婚も、出産もないということだ。これは少し残念だ。マコトの匂いは理想的だから、もしも同意してくれるなら一度試したいと思っていたのだ。  竜人族は匂いが大事だ。合わないと欲情しない。本当に見事に興奮しないのだ。えり好みが出来る状況ではないと分かっている。だが勃起もしないのだから仕方がない。  それに比べてマコトの匂いはなんて誘惑的なのだろう。タネヤドシの毒が抜けて、体も綺麗にしたのに近づけば香る。理性をしっかり持っておこう、そう決めた。  それに、どうしても無理矢理は嫌なのだ。竜人族を受け入れるのも困難なのに、承知で受け入れてくれる相手は愛したい。  たとえ一時でも体を繋げるのだし、もしかしたら子が生まれるかもしれない。そうしたら、産んでくれた相手を生涯掛けて愛そうと決めている。無理に犯した相手とは、そんな関係にはなれないだろう。  彼は今、食べ終わった食器を洗っている。家庭的な姿は見ていて好感が持てる。  家事能力があるかと言われると「困らない程度」というしかない俺とは違い、実に手慣れている。同い年っぽいのに、もう何年もやっているようだ。  細く柔らかな背中が楽しげにしているのを見て、俺はほんの少し夢を見る。  それは派手ではない、小さく慎ましやかな生活。自分がいて、妻がいて、子がいて。距離の近い家で寄り合って暮らして、人のぬくもりを感じて生きていく。そんな、穏やかな夢だった。

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