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14-2 永久に共に

 身につけるアクセサリーを贈るのが、慣わしだ。このアクセサリーに神の誓いが宿る。互いにはめれば絶対に取れない。  俺は拘りがなかったから、マコトに聞いてみた。マコトの世界では、何かを送り合うのかと。そうしたら、指輪の話をされた。夫婦は同じデザインの指輪を左の薬指にはめるそうだ。  それがいいと思った。そしてそこに、石を入れた。  マコトの瞳と同じ色の宝石を見繕うのに時間がかかってしまった。真っ黒ではなく、僅かに透ける茶が入る。見つめれば見つめるほどに綺麗に思えて、これに見合う宝石はあるのかと思った。  俺は自分の物よりも細い指輪を、マコトの左手の薬指にはめていく。マコトも同じように俺の手を取り、指輪をはめていく。  妙に、ドキドキしている。はまった指は、どこか温かくも思える。 「では、誓いのキスを」  微笑ましい笑みを浮かべる司祭の言葉に、俺はそっとマコトを抱き寄せる。マコトはかなり恥ずかしそうにしている。そんな顔が、潤んだ瞳が俺を見上げて瞳を閉じる。  誘われて、俺も身を屈めて彼の唇に触れた。柔らかく、小さな唇に沢山の愛情を込めて。  祝福の鐘が鳴る。マコトは驚いて俺の腕の中でビクッと震えた。だが、それが自分たちの結婚を祝うものだと分かると途端に嬉しそうに微笑みかけてくる。 「ここに、二人を夫婦と認めます。末永く幸せに生きなさい」  司祭の言葉を受け、俺達の上に花びらが舞う。多くの歓声と、祝福を受けながらバージンロードを歩み扉を開けたその先では、多くの民が同じように祝福の声を上げている。  周囲の重圧に耐えかねて旅を始めて、冒険者をしながら流れてきた。子を成さねば血が途絶える。いつしかその思いと責務に追われていて、大事な物を見落としていた。  そんな俺の前に、マコトは来てくれた。俺が忘れていたものを一つずつ思いだし、与えてくれる彼の存在が、俺にとってどれほどにかけがえの無いものか。  失えば、休まらない。マコトを失ったままだったら、俺は今頃おかしくなっていただろう。  再び交わったこの道を、俺は大切にしていく。交わらせてくれたモリスン夫婦と、俺を思い尽力してくれた友達に、俺はこの先も可能な限りのものを返して行かなければ。  そして、子を得た。薬が色づき、印が色づいたあの時の感動を、俺は今でも思い出せる。そしてその後のマコトの頑張りを、俺は忘れる事はない。  マコトにとってお産が大変な事は十分に感じた。だから、もう子は要らないと思っていた。  だがマコトはニッコリと笑って、シーグルがもう少し大きくなったらと言ってくれた。強く、しなやかな人。その時には俺も、もう少し強くなろうと誓う。  シーグルと過ごす温かな木漏れ日の時間が、俺にとっての癒やしであり、幸せになりつつある。そんな毎日を、これからも積み上げていく。この先何十年、何百年も共に。 「ユーリス」 「ん?」 「俺、今とても幸せだ。嬉しすぎて、涙腺壊れそうだ」  溢れるうれし涙を拭いながら、マコトは笑って言う。俺はそんな彼の眦に唇を寄せて、そっと微笑んだ。 「俺がいくらでも拭うから、思う存分泣いて構わない」  顔を真っ赤にしたマコトと、民衆のはやし立てる音。今日は全部が祝福だ。  マコトの肩を抱き寄せて、額に口づけて、俺はそっとマコトにだけ囁く。 ――愛している。これからもずっと、共にあろう。

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